わが社のモノ作り戦略 第14回
サンヨーエクセル 代表取締役社長 浅見 隆幸氏

新潟市にあるサンヨーエクセルは、三陽商会の国内に5社ある生産グループの1社で、グループ内では唯一の婦人ボトム工場である。精度の高い設計機能と素材対応力を持つとともに、独自の「アメーバー方式」による柔軟な生産現場を構築し、多品種小ロット生産に応えている。また、これまで蓄積してきたノウハウでブラウス、ワンピースなどのトップスにも取り組んでいる。全員が日本人の社員で、浅見隆幸社長は、今後地元の新卒者採用にも力を入れて人材育成を目指すという。

サンヨーソーイングのボトム専門工場

ーサンヨーソーインググループでの位置づけは。

サンヨーソーイングとしては28年の歴史があり、グループでは唯一のボトム工場です。1970年に創業した地元の会社が、80年に三陽商会の認定工場になり、その5年後にサンヨーソーイングとして受け入れてもらい、三陽商会、三菱商事、地元企業の合弁で新津サンヨーソーイングが発足、翌86年に現在の社屋が完成しました。ボトム専門でしたが、それだけでは不安定ということで、87年からトップスの取り組みを始め、95年から三陽商会の1ブランドでトップスとボトムの生産に本格的に取り組んだ経験があります。その後、2005年4月に宮城サンヨーソーイングと対等合併し、サンヨーエクセルとしてスタートしたわけです。私は前身の地元企業時代に入社し、2002年5月から正式に経営を引き継いだ。品質を維持しながら、それぞれの時代性に合わせた工場の改革を進めてきたのが工場の歴史です。

ー現状は。

現在85名で、年間生産量は10万着です。ボトムが90%ですが、ノウハウを蓄積しているので、ボトムの仕事が薄い時はブラウスやワンピースもやる。ただ、あくまでもボトムにこだわっている。国内のサンヨーソーイングでボトム工場はここしかありませんので、そういう意味で要望に対応しなければならない役割があり、基本的にはボトムに特化してきたことは事実です。

設計と素材の対応力に強味

ーサンヨーエクセルの強味はどこでしょうか。

モノを作る上でのこだわりを持って、地元工場時代から設計部門にかなり投資してきている会社です。当時でも設計部隊に7名から10名を配置し、素材分析、品質分析に強いんですね。今でも企画設計チームのメンバーは10名で、CADエリア、パターンエリアのほか、4名がファーストサンプル作成、工程分析を行い、素材やデザインの難易度などもすべてクリアにする。この10人の企画設計チームと、裁断、仕上げセクションや縫製現場のリーダーすべてが、ボディーを備えた企画設計チームの部屋で打ち合わせを行う。当然三陽商会の技術部門との連携やコミュニケーションは非常にいいんですね。お互いにキャッチボールしながら取り組むことが可能なのも、工場に設計部隊という人員がいるから出来ることです。かつては設計部隊の1人がパターンを作って、生地試験を行い、サンプルを縫って、三陽商会の技術部門と連携し変更するべき部分は変更して工業パターンを作成、さらに工場側の縫製仕様書に置きかえて量産し、出荷されるまでの間を全部見ていた。従って、そういう人材はオールマイティーで、その頃は短大卒の新卒者を採用し、3年間、現場で修業させ育成していました。

ー現場でモデリスト的な人材を育成してきたわけですね。

以前は手書きでパターンを作成していたので、それだけの人員が必要だったわけです。だからシステム化は遅かった。CADを導入したのは2000年で、CAMがその翌年。その頃、私は経営を実質的に引き継いでいたので、経営者をやりながらCAD/CAMも一挙に立ち上げた。それと同時に、どんどん仕事が小ロット化し、その対応にシステム化が上手くリンクして、市場の変化についていけたというタイミングでした。逆に言うと、その時にシステム化しなかったら大変なことが起きたわけです。今は、ますます小ロット化が進み、平均ロットは150、200になり、ある程度分業化しなければならない時代に突入している。そのため企画設計チームを専門化しているのも事実。従ってCAD専門に1、2人が必ず携わり、工業パターン、マーキング、裁断のデータを作成している。ただし、このメンバーもすべてオールマイティーにできる。モノ作り全体が分かった上で専門化しているわけです。サンヨーソーインググループは三陽商会と直結し、いいコミュニケーションが図れる環境になっています。以前はサンプルがアップされた頃にデザイナーさんが来て、ここをお願い、と現場でチェックしていました。そういう実績もあるわけですから、MDさんも含め、生産現場との距離をもっと近くすることが、品質をさらに高め、コストの追求を一緒にやっていける一番の近道です、という提案をしています。

パターンや縫いが分かる10名を配置している企画設計チーム

アメーバー方式の「全員野球」

ー生産現場での取り組みは。

工場内は1フロアで裁断から仕上げまで一目で分かります。縫製は以前は4ラインに分かれていましたが、50枚、100枚以下の小ロットに対応しようとすると、前工程から言えば7型から10型くらいが流れ、非常に段取り替えのロスが多くなるため、今はラインを1本化しています。そのポイントはいわゆるアメーバー方式で、機械を動かすのではなくて、必要な時に必要な人間が動く。固定人員は裁断が9人、縫製が52人などと決めていますが、それは誰が上司で、誰の指示を受けるのかを明確にしておく必要があるから。しかし、その人員はあくまでも設定であり、完全固定ではない。アメーバー方式だから、仕事に応じて裁断からでも縫製や製品検査に人が動く。もっと言えば、事務所の社員もマトメをする。全員野球という考え方です。

ー縫製部門は。

ボトム工場なので、段取りグループとして、サージング、ダーツシーマー、ネーム付けなどの自動機班、それと仕込みのラインであるパーツ加工班を設けています。このパーツ加工班でアイテムやブランド、型番に対応し、前身のポケット付け、プリーツ付けとか、もう残りは組み立てだけというところまですべて作り込む。だからパーツ加工班は多能工です。リーダーが一人ひとりの技術力を知っているので、最適な担当者に仕事を配置する。組み立て班は、スカートとパンツのラインがあり、出来る限り単純工程として流せるようにしている。また、パーツ加工班の場所に配置した企画設計チームの4人がファーストサンプル、パターンオーダーなどの小ロットを担当し、展示会サンプルはすべて量産と同じ仕組みの中で流している。縫製部門もほかと同じように人が移動するという、汎用性のあるラインになっています。

ーこの仕組みのためには高い管理力が必要です。

サンヨーソーイングですから、三陽商会のほとんどすべてのブランドが入ってきます。それだけのブランド数をこなすには多くの型数をこなさざるを得ませんので、ピークは2ケタのロットが並びます。同時にサンプルも相当あります。だから小ロットに対応しつつコストをきちんと合わせられるように、効率よく、小回りが利く体制にする目的でこういう流し方になった。これを総括管理しているのが工場長で、私も口出ししません。工場長が全体をつかみ、今日、明日の流れを指示し、あとはリーダー同士が、何時から何人を動かすか、ということを打ち合わせる。だからこの会社は管理監督者で動いている。しかも工場長以外はみんな女性です。

ー今後の人材育成については。

人材は基本的に現場で育つと考えています。要するに親が子供を育て、子供が孫を育てるやり方です。例えば設計部隊で言えば、私がパターンメーキングからグレーディング、マーキングまで教えた社員が次を育てる。そういう連鎖的な育成をやっているので、先輩、後輩という良い関係が出来る。企画設計チームのメンバーでも分からないと、縫製のリーダーに教えを請いに行きます。必ず自分から習いに行くという風土になっている。今後は地元の高校や専門学校からの採用に力を入れていきたいと考えています。そのためインターンシップも始め、今年は地元の高校生で就活しようとする3年生36名を受け入れ、私が講義しました。地元にモノ作りの環境を知ってもらおうという取り組みも動き出し、工場を小中高校生に開放する計画もあるので、そういう取り組みと連動してどんどんやるようにしていきます。

「アメーバー方式」よる柔軟な対応が強味のサンヨーエクセル

JUKIは世界のアパレル生産を全力でサポートします

自動サージングマシン「ASN-690」を導入

サンヨーエクセルでは、今年6月にJUKIの「自動サージングマシン」(ASN-690シリーズ)を導入されました。ボトム工場に不可欠な機種であるサージングマシンは同社でも稼働していましたが、「小ロット化が進み、スピードよりも、むしろ汚れが出ないものが良い」(浅見社長)という品質を重視し、JUKIのマシンに決定されました。

自動サージングマシン「ASN-690」を導入

「縫い目がきれい」と評価

ASN-690シリーズは様々な形状をした生地の縁かがり縫いを行うサージング工程に対応する機種で、定評ある高速オーバーロックミシン「MO-6904S」を搭載し、安定した縫い品質を実現します。特徴としては、(1)JUKI独自の微量押さえ上げ装置を標準装備。素材に合わせた押さえ高さで送り傷や、パッカリングを防止し、風合いを損なわない高品質のサージングが可能です(2)生地を誘導する布ガイドは、工具不要で素材に合わせた高さに調節が可能です。スペーサー交換などの煩わしい作業はありません(3)埃や切り屑の溜まり易いルーパーカバー内部にルーパークリーナー機構を標準装備しました。メンテナンス性を向上し、縫製物に切り屑などが混入する可能性も軽減しています--などです。
ミシンの改造、メンテナンス、アタッチメント開発まで手掛ける中野克美工場長からも、「ほかの機種に比べて薄物が得意で、縫い目がきれい」と評価して頂いています。

同社ではJUKIの高速電子単糸環縫い根巻きボタン付けミシン「AMB-289」、ダイレクトドライブ高速電子本縫い千鳥縫い自動糸切りミシン「LZ-2290ASR-7」などが稼働しています。これに加えて、現在、電子サイクルマシン「AMSシリーズ」のネーム付け機を検討中です。現場では様々な種類のネーム付けがあり、これまでハンドで対応して来られましたが、マシン化するためJUKIにアタッチメントを依頼、近く導入する予定です。
浅見社長は機器メーカーに対してこう要望されています。「国内のモノ作りの現場に足を運び、どういう問題があり、どういうことを要望しているかという情報収集をして欲しいですね。来て頂ければ、我々は実はこういうことは出来ないのか、というテーマがあるんです。そういうコミュニケーションがたえずはかれるように、なんらかの形で糸がつながっていると良いと思います」。

高速電子単糸環縫い根巻きボタン付けミシン「AMB-289」

ダイレクトドライブ高速電子本縫い千鳥縫い自動糸切りミシン「LZ-2290A」

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