わが社のモノ作り戦略 第9回
アトリエいしくら 代表取締役 石倉 崇之氏

ファッションの中心地でプレタを作る

より取引先の近くでプレタを作る--アトリエいしくらは、生産管理や裁断、出荷などは東京・中野区沼袋の本社で行い、縫製部門のソーイングルームは渋谷駅近くの都心に置く。社内で育成した若手女性技術者が全体の生産をコントロールし、ソーイングルームは専門学校、大学から採用したスタッフを主力とし、若い感性によるファッション感度の高い「東京のモノ作り」を目指す。都内工場の若手経営者を代表する一人である石倉崇之社長に話を聞いた。

感性の高い若手技術者育成

ーこの仕事を始めたのは

18歳の時に会社に入り、今25年目です。祖父が沼袋で始めた縫製工場を叔父が継ぎ、婦人服のベターゾーンの商品を手掛けていましたが、僕が24歳の時に社長の名義だけ残して工場の経営から退きました。当時4、5人の工場でしたが、僕が引き受けることにしたのは、すでに生産が海外に行き始めたし、人も集まらないので縫製工場は先行き見込みがないと言われていたけれど、逆にダメなものにしかチャンスがないと考えたんです。単純に計算して、当時やっていた加工賃の倍の商品をやれば儲かる可能性があるという発想で、やらせて欲しいと。もう次の日から会社の中身を変えようとしました。

ープレタ工場に転換できた理由は何でしょうか。

中野、杉並の山手地区にはプレタといわれる高級婦人服作りで知られていた会社があり、工場の若手経営者や幹部が集まる「二友会」で知り合った人たちに高級品の作り方を見せてもらったり、お手本にしました。山手地区のプレタ工場はすでに確立されていて、うちは最後発から追っかけて行くので、良いところ取りすればいいだけでしたからね。それとプレタをやっている雰囲気をすごく醸し出すようにした。都心にソーイングルームを開設したのもその一つです。そうすると周りは、アトリエいしくらってすごいいいモノ作りをするというイメージを持ってくれて、いいブランドからお声が掛かってくるし、いい人たちが集まってくるようになった。また、それに応えなきゃいけないし、恥ずかしい商品を見せられないから、モノ作りに必死になった。2003年に正式に社長に就きましたが、圧倒的に若い社長だったし、社員たちの平均年齢も若く、それがトップブランドをやっているので、ちょっと違う会社だなと思って頂けたわけです。

ー現在の会社の概要は。

沼袋の本社が8人、ソーイングルーム・シンセンが11人で、本社が生産管理とCAD/CAM、マトメ、プレス、納品、要するに縫い以外を全部担当しています。ソーイングルームは2005年秋に駒場に出し、昨年2月に神泉駅近くに移した。うちがほかの会社と違っているのはOB社員が「在宅」として社外戦力になっていることです。現在、10人くらいで、都内や埼玉、新潟などみんな結婚した環境で仕事をしている。会社の中も流れラインを強化するのではなく、人の育成を重視しています。だからある年数経験すると自分で仕事を回せるようになり、そこまで行くと結婚して家庭に入っても仕事ができるので在宅になってもらえます。縫製工場に勤めている人が辞めても家庭では仕事ができないのがほとんど。技術の世界なので、修業したあとに身になることがないとムダになってしまう。だから、うちでは在宅という道を作っている。会社は小さくてもいいので、技術者たちの根を張っていきたいと考えています。ここから育った人たちが在宅として50人、60人いてくれることが強みになるので、そこを目標にしています。

ーどんな流れでモノ作りしていますか。

本社で裁断した生地や裏地、芯地、テープ、ミシン糸などは1型ごとに仕様書などと一緒にクリアボックスに入れてソーイングルームに運び、縫製が上がると本社に持ち帰って、検品、仕上げします。在宅もまったく同じシステムで、縫いっぱなしで返ってくる。ソーイングルームではミシンを壁側に向けて作業していますが、これは家庭を想定しています。六畳間であれば必ず壁側にミシンを向け、ヨコか後ろにアイロンを置く。6畳1間がアトリエになることを考え、会社もそうしています。在宅はサンプルを縫う人もいれば小ロットをこなす人もいて、仕事量は本人の希望で出します。在宅の技術が落ちないように本社の検品は厳しい。独自の検品表があり、ソーイングルームも在宅もこれで自分たちがチェックし、本社もそれで確認します。チェック項目を全部クリアしないといけないから、品質は落とせないようになっている。会社から離れたところで仕事をするので、そういう仕組みを作り、すべてアトリエいしくらのレベルになるようにしています。在宅は会社でリーダーを務め、検品を担当していたような人たちだから、自分が縫った商品が返されるわけにはいかないんですね(笑い)。

新入社員に時間を見つけては指導する石倉社長

東京ならではの空気感じて

ーソーイングルームを都心に設けた狙いは何でしょう。

やはり売り場がすぐ近くにあることです。主力取引先のジュンアシダさんの本店もここから歩いて15分。そういう場所でモノ作りすることでスタッフたちが言われたことだけをやるのではなく、高い感性で仕事ができることが大切と考えたからです。ずっと言い続けていますが、同じ縫い代を縫うだけなら中国の工場が圧倒的にきれいで、日本はかなうわけがないと。だから僕らはアドリブが重要です。例えばいい美容師はただカットするのではなく、お客に似合った髪型にする。それにはその人を見て知っていないと無理ですよね。それと一緒で、社員たちがソーイングルームに来るときは渋谷駅を通過してきますから、洋服屋がいっぱいあり、いつでも服を目にできる。こういう服が、こういう素材が今流行って、こんなきれいなのものができるんだと。我々ももっと頑張らないといけないという意識付けのためにも、日々、服に包まれている環境が大事です。もう一つは、取引先の近くにあると打ち合わせにもすぐ行き来でき、使い勝手が良い工場ということをアピールできるという理由があります。デザイナーさんたちがよくここに来て頂けますので、コストは高いけどファッションの中心地でモノ作りをしているという、この空気を感じ取ってもらいたいと思っています。

ーソーイングルームの社員は専門学校と大学の出身が中心になっています。

かつては東京の工場も地方の高校新卒者を集めていましたが、うちは新卒でも一般の高校ではなく服飾デザイン科のある埼玉県立越谷総合技術高校に絞って求人していました。そこで採用したのが現在、本社でゼネラルマネージャーを務める稲庭称子や主任の廣川直子です。そこから次のステップとして文化服装学院や文化女子大(現文化学園大学)から採用を始め、現在の求人はこの2校だけで、今春は大学から2人、学院から2人を採りました。技術職に就くために専門学校や大学で学んでいる学生がいますから、毎年学校に求人票を出すと40~50人応募してきます。でも、そういうところに求人を出すにはある程度一人前の給料を出さないと見向きもしてくれません。そのバランスが取れているところには人が来ます。

ー文化学園大学からはインターンシップも引き受けているそうですが。

もう4、5年やっていますが、毎年夏の8月初めから3週間の日程で、今年も4人受け入れます。学生は大学側で選定していますが、みんな限られた学生生活の中で、縫製の技術や知識を得たい、工場の生産過程を研修したいというのが目的です。今年は2時間半とか1時間以上掛けて来る学生がいます。実務を経験させるのが目的だから、お客様扱いせずに、1年目の新人と同じように作業してもらい、なるべくいっぱい教えてあげる。1週目がソーイングルーム、2週目が本社、3週目はまたソーイングルームという日程で、切りびつけから柄合わせ、芯張り、検品・検針などを体験してもらう。毎年インターンシップを受け入れて感じるのは、夏休みの大半をうちに来て学ぼうというのですから、みんなすごく真面目。夏休みをインターンシップに掛けるという時点で素晴らしいと思って、文化女子大から採るようになったわけです。

ー東京の工場ならではの取り組みの一つですね。

受け入れた学生は社員全員で指導し、1年生も責任を持って教えることにしていますが、インターンシップを引き受けている理由は、1年目の新入社員たちが学生に教えるという瞬間から急成長します。それまでは社内で末っ子ですが、学生たちの面倒を見ることになると急に意識がしっかりしてくる。2年目になって後輩ができるとそうなりますが、夏場に学生が来ることによって入社して半年弱でぐっとステップアップする。だから社員のためにもこれをやっています。学生が入ると1人が付いて教えなければいけないから、実は会社中うっとおしいわけです。生産効率は落ちるし、失敗される可能性もある。でも、失敗させないようにしっかりと指導しなければいけないということで、逆に勉強になりますね。学生たちも学校も一生懸命頑張っているので、我々も一緒になってモノ作りの大切さを伝えていきたい。今の日本の縫製工場はパートと中国人の産業というイメージを持たれかねないのですが、大学や専門学校の新卒者を採用して食わせて初めて企業だと思います。うちはそこを目指しています。

JUKIの一本針本縫いボタン穴かがりミシン「LBH-783」も活躍

ソーイングルーム・シンセンでは、ファッションの中心地で感性の高い若手技術者がプレタのモノ作りに取り組んでいる

JUKIは世界のアパレル生産を全力でサポートします

高速電子単環根巻きボタン付けミシン「AMB-289」を活用

マトメ作業の機械化に

国内工場では、ボタン付けや糸切りなどのマトメ工程は家庭内職に依存しているところが大半です。しかし、内職者は減少し、残っている人達も高齢化が進んでいます。アトリエいしくら様ではこうした状況を先取りし、JUKIの一本針本縫いボタン穴かがりミシン「LBH-783」に加え、新たに導入した高速電子単環根巻きボタン付けミシン「AMB-289」を活用されています。石倉社長に「AMB-289」導入の目的を話して頂きました。

縫製工場では手仕事になるボタン付けなどのマトメ作業は内職屋さんに頼っているのがほとんどです。しかし、今、うちの内職屋さんの年齢を見ると、もう60代後半から70代半ば。内職のボタン付けは1個10~15円が単価で、ベテラン職人でも1時間に15~20個できるくらいですから、単純にいっても約300円しか稼げません。工場のミシンオペレーターのなり手は来ますが、内職に新たに加わる人はほぼゼロです。要するにマトメ工程を機械化させないと我々工場が一番困るわけです。
10年後を見たときに機械化していかないと、内職がいなくなってから機械を入れてももう遅いわけです。今のうちに半分くらいは機械化の流れを作っていく必要があります。取引先の方々にもそういう話をしたところ、機械化の許可が取れました。それで「AMB-289」を導入しました。
我が社にとっては高額機種です。1個10円の作業に時給1,000円の人間が携わることになるのですから。だけど、人手で付けると時間は掛かるし仕上がりにばらつきが生じますが、だれが使ってもきれいな根巻きボタンが付けられるというのが利点です。
主力の取引先は、袖の飾りボタン以外、基本的に前ボタンは全部根巻き仕様です。「AMB-289」は根巻きなしのボタンにも使えますし、力ボタンも付けることが可能です。しかし、プレタの服ではボタンのデザインにも凝っています。ボタン穴も繊細で、針が通るか通らないかといった形状のため、現在、機械付けできる比率は50%くらい。
それでも納期が迫っているときに、マトメ内職屋さんは高齢の人が多いため最後の飛ばしがききません。ですから社員たちが「AMB-289」を使って納期に間に合わせるという部分では非常に助かります。
私たちはプレタの高級品を手掛けていて、取引先の方々も最初は機械付けは何か安い感じがするようで嫌がります。しかし、手付けではムラがあったりしますし、物性からいってもこっちの方がきれいで強度が高いというメリットがあります。新しい取引先に対しても、根巻きミシンは非常に正確で、どのくらいきれいに出来るかということをアピールすると必ずOKが出ますね。

きれいな根巻きボタン付けで評価が高い「AMB-289」

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