服作り新時代 Vol.10
量産前提に技術と技を継承
小技を生かし商品差別化
株式会社 三陽商会 事業本部 生産戦略事業部
技術開発ディビジョン 統括長 清水純一氏

生産戦略事業部は、生産を一元管理し、情報を共有化する目的で昨年7月1日付で発足しました。布帛、ニット、アクセサリー、技術開発、クオリティーコントロールなど全部あわせて500人くらいの組織です。技術開発ディビジョンは、パターングループと開発支援グループの二つ。パターングループの構成員はパタンナーで、ブランドの空気の中でやる必要があるので、各ブランドのディビジョンに分散して仕事をしています。開発支援グループはCAD情報チーム、工業技術チームから成り、総合的・横断的な業務を行うセクションです。

CAD情報チームは、パタンナーがCADをどうやって使ったらいいか、効率をよくするにはどうしたらいいか、新人の教育などバックアップしています。私は8年前に日本に帰ってくるまで米国サンヨーの工場にいましたが、ウィンドウズも何もなかった1987年に、東レ(現・東レACS)さんの協力で、東京・四谷の本社と図形電送をやったりした。東レさんとは帰国後、当社は島が点々としているという特殊事情の中で、どうやって繋いで画像通信をするかということにチャレンジし、今は工場も含めて完璧にやれるようになっています。今後は、単なるCAD、CAM、グレーディング、仕様書ではなく、その先の違った形、例えばグレーディングひとつ取っても、今は未だ対話型ですが、次のステップに進む。また、海外でも生産を行っているので、中国縫製では仕様書も英語と中国語の自動翻訳がもうすぐ動き始めます。

工業技術チームは量産を前提に、技術や技をどうやって継承していったらいいかということに取り組んでいます。今の技術はいろんな意味で変わってきています。昔は技術屋と言うと、パタンナーと重なった存在でした。デザイナーについてシルエットを出していくのもひとつの技術だが、それを具現化していくのは工場さん。最初の絵姿から感性の部分でシルエットを出していくシルエットパターンまでは別れても良いと思いますが、工場で量産する時にそれをどう料理するかが問題です。素材の変化に対応できるような量産システムや技術を我々がきちんと持っていないと、ただ線だけ引いていれば良いというわけにはいかない。工業技術の方は今までただサンプルを縫っていたが、一枚縫うのではなく、少なくても重ねて切って縫ってみる。工場に行って実際にラインに入ってみればわかるということで、交流を4、5年前から始めた。実際に本流に入れなくても、そういう雰囲気、スピード感が分かってくれば、戻ってきた時に生きる。視点を工場に向けようと、講習会を先日もやったし、今後工程管理の基礎知識的な部分の勉強会もやる予定。品質管理についても、歴史から始まって”QCの七つ道具”、検査管理と品質管理の違いなどを勉強しています。この頃の工場さんは、忙しいこともありますが、工程管理や進捗管理の基礎の部分で手を抜いていることがある。だから余計に生産性が悪くなったりする。そういう基本の部分でのお手伝いができるような人を育てようということです。JUKIさんとも袖つけミシンで、うちのチームが展示会の手伝いをするなど、これまで以上に協力関係を深めさせていただいています。
職人の技術や技を継承するために、私が委員長で原案作成委員会を作り、いろいろな技術標準書を作っています。例えば、紳士のスーツの作り方で、アマブタはホットプレートを使い、縫う前にそこに乗せておき、カラカラになったものを次の工程で縫って返していく。カラカラになるから、売り場での反っくり返りが防止できる。昔職人がやる前にアイロンをかけていたが、その考え方と同じ。ホットプレートの上に乗せるというのは、1工程増えるわけだから普通はやらない。だが、10秒、あるいは5秒かもしれないが、それで出来映えは変わる。胸ハコもそのままアイロンをかけて芯を貼ると、反っくり返って合わない。今度は逆でそこに霧を吹き、それを表地に乗せて柄合わせをして芯を貼る。ちょっと良い物を作ろうとした時に、おばあちゃんの知恵的なものが忘れられて行っている。今うちの関係で職人的な人が何人か残っているので、委員会を作り、そういう技を残そうと。大技だけでなく小技が必要です。昔の小技を思い出しながら、今流の素材の扱いをしなければいけない。

工場さんともっとコミュニケーションが取れる環境を整える目的で新潟アトリエを作りました。パターングループが仕様書などを出す時、工場側でちょっとこの仕様ではまずいということがある。その時にアトリエの人間が巡回しているので気楽に相談できる。工場側は直接パターンナーに電話して、この仕様はやめて、などと電話しにくい。アトリエの位置は工業技術チームの新潟出張所みたいなものだが、いちばん大事なのは現場。現場とこちら本体とのコミュニケーションや全てを良くしよう、というのがベース。パタンナーから『工場に行って、こうした方が良いのでは、と言うと聞いてくれ、非常に感激してくれた』という報告をもらうと、やってよかったなと思っています。

”技術のサンヨー”が新しい装いで甦る

”即納率”は90%台を維持

JUKI株式会社 工業用ミシン事業部
営業本部 パーツ営業部長 大渕哲

 

パーツ営業部はJUKIの国内販売会社や海外現地法人へのミシンパーツの営業・出荷業務をしています。ミシン販売店さんやアパレル工場さんなど、お客様に直接送ることもあり、ミシンの販売と同じことであると、2年半前にそれまでのパーツセンターから名称を変更し,より能動的な活動に取り組んで参りました。
パーツ営業部では約6万種類のパーツを管理しています。ご注文を受けてから国内では48時間以内に発送することを原則としていますが、そのパーツがあるのかどうかも問題となります。最近は経営の効率を高めるため、パーツに関しても極力在庫を持たないようになってきていますので、対応も年々難しくなっています。
私どもではご注文いただいたパーツがあるかどうかを“的中率”、国内には48時間以内に発送することが出来たかどうかを“即納率”と呼んで管理していますが、今のところ即納率は90%台を維持しています。

ミシンの償却年数は7年ですので、廃機種などで生産中止となったミシンの部品でもその後7年間は在庫を持つようにしています。ミシンは生産財ですからご購入いただいたミシンがパーツ不足のために動かないのではお客様にご迷惑をかけてしまいます。
販売台数の少ない機種の特殊な部品などは在庫がなくなることもあり、原材料から手作りで加工してお納めしたこともあります。
また、電子部品はモデルチェンジが頻繁なため、電機メーカーさんから供給できないといわれることもあります。その場合は代替品を探すのですが、見つからない場合には電子基盤の設計を変えて対応することもあります。
今年5月にJUKI本体と同様にERPのシステムを導入し、全社的な一元管理となりました。これにより各種の管理データもすぐに出力できます。しかし、出力した管理データをどう活かすかが重要と考えています。今後、ミシン本体の販売実績や計画からパーツの必要在庫量などを予測して的中率を向上し、納品の期間も更に短くできるようにして顧客満足に努めたいと思っています。

約6万種類のパーツを管理する「パーツ営業部」

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