わが社のモノ作り戦略 第8回
サンライン 代表取締役 佐藤 克豊氏

青森県の津軽地区には紳士服を生産する国内の有力工場が立地している。その1社である「サンライン」(青森県田舎館村)は、メンズのスーツ、ジャケット、パンツ、コート、ベストを手掛けているが、同社が強みとしているのは国内工場ならではの対応力だ。毛芯のテーラードスーツから洗い加工や製品染めなどのカジュアル的な商品までこなす。この対応力が評価され、英国「ポール・スミス」ブランドをメード・イン・ジャパンで輸出している。佐藤克豊社長は県内のアパレル生産企業が集まる青森県アパレル工業会の会長も務めている。

何でもこなす高い対応力のメンズ工場

ーここでスーツ上下を一貫生産しているんですね。

現在130人で、上着の縫製ラインが58人、パンツの縫製ラインが23人です。メンズのスーツ、単品ジャケット、単品パンツ、ベスト、コートを生産していて、上物で日産170着、パンツが日産100本です。主力取引先はジョイックスコーポレーションとレナウンの2社が25%ずつでちょうど半分を占め、ジョイックスコーポレーションが「ポール・スミス」「ポール・スミス・コレクション」、レナウンが「ダーバン」「アクアスキュータム」などのブランドをメーンに手掛けています。そのほか取引アパレルは10数社あります。仕事量は決して伸びてはいませんが、ほかの工場が規模を縮小したり閉鎖し、その代替工場としてお願いしたいという依頼も少なくありません。中国など海外の生産工場のコスト上昇に伴って国内生産を見直す動きもあります。

メンズのテーラード工場ながら後加工物まで何でもこなす

難しい仕様や素材にもトライ

ーサンラインの強みは何でしょう。

テーラードスーツを得意としていますが、このところ仕様的にバイオ加工、ワンウオッシュ、製品染めといった後加工物の比率がもう20%を超えています。加工は専門の業者さんがやりますが、縫製ノウハウは蓄積してきました。例えば洗い加工する商品では、普通はやらない箇所にロックミシンを掛けたり、めくれてくる部分が起きあがらないように縫い目を1本入れておくとか、水抜きを付けたりします。そういう対応は社内で前もって技術を磨いておこうと言ってもなかなか出来ませんが、うちはほかの工場が嫌がる仕様や面倒でラインに乗せるのが難しい依頼もチャレンジしてきたので、それが訓練になりました。今だったら肩パッドを使わないが、前肩が馴染むように、あまりカジュアル的になりすぎないようなものというようなテーマが来きますが、それに対してこれまで蓄積してきたモノ作りに加えていろいろ工夫を重ねます。もう一つは素材の難しさがあります。最近は部分的に皮を使う依頼が増えています。ラペルが全部ワニ皮とか、ショルダーの一部や背中に皮を使うという商品があり、アイロンの蒸気を一発当てるともうアウト。それと三者混、四者混の素材は気を使ってやっていますが、シルクが15%くらい入ると少し蒸気を含んだだけで仕立て映えがしないケースがあります。数年前まで社員のみんなからどうしてこんなに難しいものばかりと言われてましたが、でもやってみないと分からないと話し合ってトライしてきました。最初から成功しなくても失敗を繰り返してきたというのが一番大きい財産ですね。毎日の訓練の賜物です。

ー国内ならではの対応力ですね。

取引先との窓口である管理室は全員ミシンが踏めますのでモノ作りが分かります。その仕事をやる、やらないはボクと管理室で決めますが、基本的にノーと言うことはありません。パターンや仕様書を送ってもらい、今まで見たことのない型でも、先に折るとか後に割るとか、その差だけの話で、基本的にはやれないことはないと思っています。うちはサンプル室や企画室という部署は置いていません。サンプルもラインに流して作製しますが、その時にパターン室の方から工程や素材の注意点を指示しますし、現場で分からないことがあるとボクが呼ばれます。それでリーダーたちにお客様の情報や、なぜこれを受けたかとか注意点を説明します。よくサンプル班を設けたらと指摘されますが、展示会サンプルから始まり、ファーストサンプル、量産先上げという形で、量産に入るまでに現場に免疫を付けていくんです。サンプル段階では、現場の各工程がレベル1~5までの難易度のランク付けを所定の用紙に書き込みます。レベル・ゼロは得意としていて生産性が落ちないモノで、これは書きませんし、今はレベル1、2も書きません。だいたい3以上をランク付けし、レベル5は通常に比べて工程数が1.5倍くらいで、生産ラインに上手く乗らないもの。でも、みんなレベル5ではなくてレベル10ですよ、と言います。その情報をパターン室とボクで吸い上げ、工場側からの仕様提案などをしながら取引先と話し合いをします。

ーメンズスーツでも多品種の商品をこなされています。

お客さんが困っていること、作りたいというものに対応するところに加工賃も付いてくると考えています。ステッチワークでブランケットステッチが必要になり、昨年JUKIさんの千鳥ミシンを購入しましたし、テーラード工場なのに平釜の太番手が可能なミシンなど、カジュアル工場と同様なミシンはほとんどあります。リベットが付く商品もあり、打ち機も自動と手動を揃えています。いずれも仕事の依頼が2社、3社と増えてきたので設備投資してきたもので、設備投資すると逆に今度はこれも出来ますよと営業に使えます。営業はボクがやってますが、作ったモノがいろんなところで評価され、そこからお話しが来るというのが多いんです。

ブランケットステッチのために取り入れたJUKI千鳥縫いミシン「LZ-2290A-SR-7」

作った商品が"営業"につながる

ーメンズスーツは海外生産が主力になっていますが、国内工場としてどういう方向を考えていますか。

メンズスーツの生産は中国をはじめ海外にシフトしてきました。また、スーツで勝負できればいいのですが、少子化や団塊世代の引退でスーツがなかなか売れなくなっています。マーケットがそういう傾向になってくると、工場としても自分たちがやりたいモノを望んでも世の中がそうなっていません。しかし、青森と東京間は飛行機で1時間半程度で、痒いところに手が届く距離というか、お互いにすぐ打ち合わせが出来ます。海外にサンプルを持っていって打ち合わせする経費を使うよりも、青森に頼むと工場側からもノウハウが出てきていいモノを作れますよと。最初は器用貧乏でどうしようかという時期がありましたけれど、ミシンとアイロンで作れるモノだったら何でもやろうと思ってきました。コートもチェスターコートやラグラン袖程度でしたが、今はダウンをやらないだけで、トレンチ、ライナー付き、中綿入り、キルティング物まで扱います。カジュアル的な商品でも、テーラードにきれいな形に持っていきたいと考えるアパレルさんがあるからうちに依頼があるんです。

ーそういう対応力をイギリスの「ポール・スミス」も高く評価し輸出が始まったわけですね。

ジョイックスで「ポール・スミス」の仕事をやっていた関係でイギリス本社の担当者と出会い、メード・イン・ジャパンで輸出を始めて7年目になります。ピークではシーズンに上物換算で2,400着ありましたが、円高の関係もあって2012年秋冬向けは800着程度でした。ただ、ポール・スミスのメーンラインと呼ぶ一番高い上代のモノを手掛けています。国内のメンズ工場は4月半ばから6月末までが秋冬物生産前の閑散期ですが、ポール・スミスのイギリス向けはちょうど4月後半から量産に掛けることが出来ます。ポール・スミス以外にも「コムデギャルソン」や「イッセイミヤケ」といった海外に輸出する量産が入ってきます。輸出向けを3分の2くらいこなしたあたりから、国内の秋冬向けが始まり、仕事が切れ目なく続いていくという流れが出来ています。端境期対策になりますが、一番は端境期に変わったモノ作りをするのでみんなの腕も上がるんです。何よりポールさんの考え方が経営者として勉強になるし、世界に知られているポール・スミスやコムデギャルソン、イッセイミヤケを作っているということで社員のモチベーションが上がるし、自信と誇りになります。

ー佐藤社長は青森県アパレル工業会の会長も務められています。

津軽地区だけ見てもメンズ工場が5社あり、年間約30万着を生産しています。規模的にはうちが一番小さいのですが、みんな元気です。何と言っても集中して工場があることにより、物流業者さん、糸屋さん、ミシン屋さんというインフラの方々も頑張ってくれます。縫製企業は労働集約型なので農家のお嫁さんでも近所で働けますし、仕事もだいたい8時半から5時で終わり、残業があっても6時半。だいたい10分から15分圏内でみんな車で通勤しますから、子供さんに何かあってもすぐ帰れます。ほかの業種では女性でも2交代や3交代の職場があり、派遣社員では来月契約してくれるかどうか分からない不安があります。確かに給料は他業種に比べて縫製企業は2、3万円安いかもしれませんが、安心できて日曜・祝日はちゃんと休める職場です。毎年弘前市で開催している「ファッション甲子園」は、高校生のファッションコンテストとして全国に知られていますが、この実行委員会は弘前商工会議所、弘前市、青森県と我々青森県アパレル工業会で構成しています。縫製業はもう終わった業種ではなく、行政ももう一度ちゃんと見直して欲しいですね。工業会では「工場交流会」を復活させて研さんの場を設けています。また、当社では昨年JUKIさんの縫製研究所を招いて工場診断を受けました。多品種少量になって生産性が低下しているので改善の方策を探るのが目的でしたが、今後は津軽地区の工場が共同で工場診断してもらい、一緒に改善研究する場を設けたいと考えています。

青森県田舎館村にあるサンライン

JUKIは世界のアパレル生産を全力でサポートします

本縫い自動玉縁縫い機「APW-896」が活躍

パネル操作で効率アップ

紳士服工場で不可欠な自動機になっている機種が、スーツ、ジャケット、パンツの玉縁縫い(フラップ付け)に対応する自動玉縁縫い機です。昨秋、JUKIの斜め・フラップ仕様の本縫い自動玉縁縫い機「APW-896」を導入されたサンラインの佐藤社長は、リプレイスの理由や効果を次のように語ってくれました。

これまでの自動玉縁縫い機はもう20年間くらい使用し、ディーラーさんからも基盤などが故障するとさすがにメンテナンスが難しいと言われていました。生産に欠かせない機種だけに、ある日突然壊れてしまうとすごいダメージを受けるし、いつも気に掛かっていました。
動玉縁縫い機は高額機種と言われますが、単純計算して当社の稼働日で割り出しますと1日約3,000円の設備投資です。しかし、今回のAPW-896は以前よりは使い勝手が格段に良くなっています。両玉縁と片玉縁の切り換えが、パネル操作でワンタッチで可能になっているため、従来機に比べて大幅に作業時間の短縮ができます。
こうしたAPW-896を使うことによる効率アップや、新しい設備の導入を機にほかの工程改善も見直すことなどにより、1日3,000円の投資はそれほど高いものになりません。そう考えるといち早く欲しい機種でした。何よりも、工場に欠かせない設備がいつ壊れるんだろうと心配することもなく安心です。
導入効果としては、何と言っても作業が楽です。APW-896は平行玉縁縫いに加え、斜めポケット縫いに対応しています。しかも操作パネルで簡単にコーナーメス切り込み調整が行えます。当社は紳士スーツでも多品種小ロット生産で、仕様や素材もさまざまです。こうした多様な玉縁角部のメスの切り込み量の微調整が、タテ、ヨコ方向ともに、工具を一切使用しないでパネル操作のみで可能です。
従来機ではねじ回しを使って調整したり、縫い方を工夫していたため作業に結構時間が掛かっていましたが、APW-896は調整時間がものすごく短縮し、高品質な玉縁を縫製できます。女性社員がタッチパネルで簡単に操作できるというのが一番大きなメリットですね。

女性でも両玉、片玉が簡単に切り換えられて好評な「APW-896」

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