次世代のモノ作りに挑戦 第19回
株式会社ニィニ 代表取締役社長 保坂峻氏、取締役デザイナー 保坂郁美さん

「捨てないアパレル」を本格展開
セミオーダー、リメーク事業を柱に

ファッション業界でもサステイナビリティー(持続可能性)というキーワードを抜きに語れない状況になってきました。こうした中、埼玉県蕨市で婦人服の企画、生産、販売を手掛けるニィニは、従来からのOEM(相手先ブランドによる生産)の一方、オリジナルブランドのセミオーダーと、毛皮や着物などのリメークの事業を拡大し、3年前から両事業を「捨てないアパレル」と位置づけ、本格的な展開を始めています。この理念を周知する一環として独自にシンポジウムを開催したり、地元の小学生を対象にした工場見学会なども行っています。「創業時からJUKIさんにサポートしてもらっています」と話す保坂峻社長と、娘で取締役デザイナーを務める保坂郁美さんにお話を伺いました。
 

地元・蕨にある特産の綿織物「双子織」を使ったスポーツウエアなどを揃えた店舗

ーもともとは縫製工場としてスタートしたそうですが。

 社長 実はこの会社は1983年4月に妻(専務の晴代さん)が始め、法人にしたのが1992年です。高い技術力が評価され、当初から大手アパレルの高級ブランドを手掛けてきました。今は新進・新興アパレルなどの高級品の仕事が中心で、現在でも約8割がOEMです。

ー「捨てないアパレル」を打ち出した目的はなんでしょうか。

 郁美さん 背景には母がずっと丁寧なモノ作りをしてきたことがあります。17、8年前にはセミオーダー対応のオリジナルブランドを立ち上げました。ブランド名は「エルベムム」で、母が付けました。エルベはフランス語の「高貴な」「美しい」、ムムは漢字で「無無」、何もないところからハイセンスな美しいものを生み出すという意味です。また、7、8年前からお客様の声を受けて着物や毛皮のリメーク事業に取り組み始めました。リメークは初めてで、ましてや毛皮は扱ったこともないし、大切な着物を洋服に替えることになるので母は最初すごく懸念していました。でも、お客様とやり取りをしているうちに、着物や毛皮は単に着るだけのものではなく、その方の思い出そのものだって気づき、本格的にリメークをスタートしました。セミオーダーは在庫を持たず、そのお客様だけの1着ですし、リメークもその方のために作ります。こうした仕事に取り組むうちに「捨てないアパレル」という言葉が生まれてきたんです。ファストファッションが出回るようになってアパレルの大量生産・大量廃棄の問題が浮上し、ただもう安くモノを作る時代は終焉を迎えているのではないかと考えたわけです。

ーリメークはどのように進めて行くのですか。

 郁美さん お持ち頂いた絵や写真などを参考に私がデザインを描きながら決めたり、当社の店舗にある商品を見ながらお求めのイメージにすりあわせます。それで専務と私、パタンナーの3人で検討します。いずれにしてもトワルを組み、お客様のOKを頂いてから最終的にリメーク作業に入ります。
 社長 この間も買ったとき400万円とか600万円くらいしたという着物を持ち込まれました。それを全部ばらして洗い張りに出し、戻ってきた生地をカラーコピーに撮ります。そのカラーコピーをトワルに当てて、このあたりに柄がこういう風に来ますということをお客様に確認してもらいます。毛皮はロングコートが多いんですが、ご要望を聞き、フェイクファーで作ってお客様に確認してもらいます。お客様に納得して頂いた上で作っていきますのですれ違いもなく、これまで一度もクレームがありません。もともと高価なものですから手間暇を掛けています。
 郁美さん ご要望と相違が出ないように2、3カ月掛けて丁寧に取り組みます。それでも、いざハサミを入れるときはやっぱり考えます。着物と洋服では全然違うものになりますから。今でも自問自答しながらやって、お客様にお渡しして喜んで頂いた顔を見て、ああ良かったと。

ーJUKIとのお付き合いが長いそうですね。

 社長 当社の協力工場さんが秋田にもある関係で創業当時からJUKI販売の秋田営業所とお付き合いしています。昨年はダイレクトドライブ高速本縫い自動糸切りソーイングシステム「DDL‐9000C」を2台導入しました。
 

縫製現場ではJUKIの「DDL‐9000C」が活躍

シンポジウムなどで周知活動

ーモノ作りだけではなく、「捨てないアパレル」を訴求する活動も行っているそうですね。

 郁美さん 2018年10月に連続シンポジウム「未来を選び取る消費~これからを想う、衣・食・住・健康・教育とは~」を埼玉県川口市で開きました。シンポジウムと賛同企業の展示会という構成で約120人の参加者がありました。連続と名付けたのは伝え続けることが大切だと考えたからで、19年10月は東京・目黒区にある蟠龍寺というお寺をお借りし、リメークした着物のファッションショーとトークショーを開きました。残念ながら20年は新型コロナの関係で断念しましたが、埼玉県主催の女性によるビジネスコンテスト「SAITAMA Smile Women ピッチ2020」に応募し、「捨てないアパレル事業」が最優秀賞を受賞しました。地元の小学生を招いて工場見学会を行ってモノ作りを知ってもらう活動を続けていましたが、受賞をきっかけに県内の高校から講師に招かれてお話しする機会も出来ました。

ー今後については。

 郁美さん 最近、SDGs(持続可能な開発目標)という言葉が世界共通語としてよく聞かれるようになりましたが、私たちがやって来たことはその中の目標12「つくる責任 つかう責任」ということで、今の事業が間違ってなかったということを後押しして頂ける気持ちになりました。まだ顧客も少ないので「捨てないアパレル」の理念をもっと浸透させていかなければなりません。ただ、事業を拡大することは余り考えていません。ニィニの仕事が素敵だなという人が増えることで、業界の活性化につながればいいし、消費者のみなさんにも正常なモノ作りのあり方を考えて頂くきっかけになればと思います。長く着て頂くためにクリーニング店との連携も始めています。SDGsが叫ばれているからやるのではなく、ニィニの会社がある限り、「捨てないアパレル」の取り組みを持続し進化させていきます。
 

CAD/CAMも揃えて10人のメンバーで丁寧なモノ作りを徹底

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