生産現場に『JUKI』を探る Vol.15
アパレル生産現場第14回
南幌ソーイング

株式会社 南幌ソーイング 阿部邦彦社長

「絶対に中国に勝っている。遙かに前を行っている。」面積の割には数が少ない北海道の縫製工場の中にあって、今回紹介する南幌ソーイング(空知郡南幌町元町3丁目1-7、阿部邦彦社長)は大いに注目されるレディスの工場である。「全ては取引先メーカーの要望に応えるため」という積極的な機械設備の導入。1人の熟練技術者による先上げサンプルとは別のライン先上げ。こうしたことのベースには、阿部社長の経営やモノ作りについての理に叶った考え方がある。

理に叶ったモノ作りの思想

阿部邦彦社長は札幌の出身。父親はメンズテーラーをやっていた。東京の大学を卒業後、生地問屋に入社する。「生地に関する考え方とか、生地の見分け方とか、その時の基礎知識が生きている」と言う。営業で回っていた婦人服メーカーの社長の誘いでアパレルに入った。「いろんなことに興味があり物好き」な阿部氏。そこのパタンナーからパターンを教わった。その会社には結構長くいたが、結婚を機に札幌に戻り、しばらく父親の紳士服の仕事を手伝った。しかし、「小さい頃から見ていたが、紳士服は絶対にやりたくないと思っていた」阿部氏は、自分で婦人服の工場を始める。29歳、今から38年前である。当時は小売りが強い時代で、品揃え店が幅をきかせていた。新宿高野やミッシェルなどが、自分で企画してメーカーに作らせ、地元の工場が1週間サイクルで毎日納品する。量は50枚とか少なかったが、ノーリスクだから儲かった。その後、品揃え店が無くなり、札幌のアパレルもダメになった。阿部氏も工場を止め、ミッシェルの担当者の誘いもあり東京でしばらくアパレルをやった。だが、「モノを売るより、モノを一生懸命作る方が好き。やはり根は工場屋」。東京から再び札幌へ。「戻って不動産屋やラーメン屋など、喰うためにいろんなことをやった」。
もともと南幌ソーイングは、阿部社長の奥さんの兄が企業誘致で1991年に設立。しかし、93年、病気で出来なくなり、阿部氏がバトンタッチする。ラーメン屋と二足の草鞋だった。
当時、工場はベネトンのスカート専業で、大きな下請け工場の孫工場だった。1ロットが何万枚という単位。あとは女子自衛官の制服の下だけ。住金物産の知り合いに紹介されたのがサンエーインターナショナル。新しいブランドである「ボディドレッシング」の工場を探していた。さっそく手を挙げ、ボディドレッシングをやることになった。「ベネトンや自衛隊の制服とは、モノに対する考え方が違う。うるさくて半端じゃなかった。最初の1年間はえらい目にあった」。あまりにもモノの差が激しいので、1年経った時に阿部社長は決断。ベネトン、自衛隊制服をやめボディドレッシングに絞った。従業員は50人いたが、仕事がうるさいし、直しが多く、不平不満が渦巻いていた。会社方針が決まると、半分くらいがやめ、25人で再スタートした。だが最初の2年、3年はすごい赤字。「だからラーメン屋で一生懸命稼いで、こちらにつぎ込んだ。何とか軌道に乗ったので、妹に社長をやらせていた」。
しかし、今から10年くらい前、急激な中国へのシフトで、工賃が下落。「途端に工場は真っ赤っか。つぎ込んでも、つぎ込んでも、ラーメン屋の稼ぎでは追いつかない。ヤバイと思って、東京のラーメン屋を人に譲って、7年前にここに来た」。
現場復帰するとともに、人間の考え方からやり方を全て変えた。また、パタンナーだった近藤孝子さんを工場長として招聘した。近藤工場長は、東京で下請けパタンナーをやっていたが、その前は大手縫製工場のライン長だった。以来、近藤工場長が縫製を見て、縫い以外のあらゆる部分と裁断までを阿部社長がやるという仕事の領域を分担。アドバイスはし合うけど、あとはお互いにテリトリーを荒らさない。アタッチメントなどの開発は相談しながら阿部社長が作る。「最初、徹底的にミシンの踏み方と止め方を教え、あとは縫いやすいように全てを用意する。技術者の要らない工場、ミシンを踏めればいい工場」を目指して来た。

ほとんどがJUKIで占められる縫製現場

他が嫌がるものを大得意に

現状、人員は分工場を含めて全部で73人。縫製人員は53人。生産アイテムはレディスのボトム。アイテムを絞って、取引先やブランドを多様化するという戦略だ。今はサンエーインターナショナルが全体の80%を占める。
サンエーのブランドはヴィヴィアンタム、ナチュラルビューティ、ボッシュ、ピンキー&ダイアン、ノーベスパジオ、ボディドレッシング、マテリア、アドーアなど。他に三陽商会(フラジール)、ファッションネット(ジュライスター、ローカスター、ビームスなど)、WIT関連のノエビア、ポーラなど。「特別な営業はないが、人と人とのつきあいで割と仕事が入ってくるような状態」と阿部社長。
ボトムはスカートが中心で、シフォンのエレガント系が得意。「柔らかくて他の工場では嫌がるもの。シフォンのバイアスなんて大得意。10年ほど前、ジョーゼットのバイアスのパンツとジョーゼットのバイアスのスカートを頼まれた。寸法通りに上がらず、最初は大変だったが、裁断から全部バイアスを特訓。結果、目をつぶってでも出来るようになった。それが今は一番おいしい財産。そういう仕事は全部うちに来る」。流し方は5,6人の小班で小ロットに対応する。 ミシンは、100台をはるかに超す台数がある。「ミシンの数を増やすのは、技術云々ではなくて、メーカーさんの要望を満たすため。メーカーさんから仕事が来た時に、このミシンがないから出来ません、と言わないようにする。主力のメーカーさんは、うちをある程度、当てにしている。来た仕事は全部断らずにやってあげるということが基本」。本縫いは、1人1.2台くらい持っている。糸を替えないで済むようにするためだ。そのほかにステッチミシンとか特殊ミシンを持つ。
JUKIとは、工場が出来た時からの付き合い。最初に全部JUKIだった。最近、新型サージングASN-690Lを2台入れたが、今回は3代目。前機種の2台は予備で残している。「新型は性能としては皆さん気に入っている。ボトム屋だから、サージングが無かったら困る」。縫製現場に入ると、本縫い、ロック、特殊ミシンの多くがJUKI製。電子鳩目穴かがりミシンMEB-3200S、セミドライヘッド1本針高速オーバーロックミシンMO-6704D-0F4-307、高速電子眠り穴かがりミシンLBH-1790Sなどが活躍。最近、オーバーロックミシン6台を入れたが、全てドライタイプ。「次はステッチのドライが欲しい」と話す。
「呼べばすぐに飛んできてくれる」JUKIとの関係が深いのは、北海道特有の事情もある。「北海道は広く、急な場合に近くの工場に頼むということが出来ない。工場の中で全ての機械を準備しなくてはいけない。それだけにミシン屋さんがすぐに来てくれないとすぐに止まってしまう。JUKI製でないミシンもあるが、全部JUKIさんを通している」。
阿部社長は「商品の顔、縫製技術とも、絶対に中国に勝っている。中国より遙か前に行っている。縫製技術は縫う人の技術ではない。作ったモノを見る人の目」と言う。「ちょっとここがうまくない。だったらこうやって縫いなさい、と教えられるのが技術。良いものを作るという根本の考え方を変えていかないと良いものは出来ない」。
同社の特徴はライン先上げ。1人の熟練技術者が1点先上げサンプルをメーカーに出すが、そのほかに各ラインで先に1点縫うライン先上げをやっている。それを工場長が見て全部チェック。特に悪い部分が多いとラインで再先上げになる。OKが出るまで何回でも先上げをやる。「先上げは所詮、1人の者が丸縫いしている。全部が得意というのはあり得ない。人間は技能の差がある。ラインはそうではなくて、それを解決して縫うから、先上げよりはラインで縫った方がキレイ。それがモノを作る時の最低条件。それをやると効率が悪いように見えるが、結果的に効率は上がる」。「うちがやっているサンエーさんのブランドは高いものばかり。変なものは納められない。結果、上がって悪ければ全量修正だから、そうなっては大変。工場に来られるサンエーの人はやはり、工場先上げとか、その辺に興味を持っている。ああ、こうやっているからキレイに上がるんですね、と」。サンエーは全部無検品。一貫したモノ作りの思想とブレない姿勢が印象的な工場だ。

新たに導入した"3代目"サージングASN-690L

電子鳩目穴かがりミシン MEB-3200S

高速電子眠り穴かがりミシン LBH-1790S

セミドライヘッド1本針高速オーバーロックミシン MO-6704D-0F4-307

JUKIから「この一台」

自動サージングマシン ASN-690シリーズ

ASN-690シリーズは、縫製オペレーターのサージング縫製作業動作を徹底調査し、『シンプルで使いやすさを追求した超高速サージングマシン』です。
搭載頭部は最高8,000sti/min(針/分)のサージング作業を可能にした超高速オーバーロックMO-6904Sを搭載、高い生産性と素材に合わせた縫対応力・低テンション縫品質を実現致しました。
シンプル操作の実現に対しましては、

  • 工具を使用しないでも素材に応じて簡単に高さが調整できる布ガイド
  • メンテナンス工数を軽減させる上ルーパー腕部埃集塵機構(ルーパークリーナー機構)
  • 縫製素材の傷などを防止する微量押え上げ装置
  • 縫製中の素材の流れをスムーズにするエアーブローテーブル

などを全て標準装備し、縫製オペレーターのスピーディーな作業を徹底サポートします。
また、スタッカーは従来機同様シーム数で自動的に動作することに加え、大きく押し易いマニュアルスタッカースイッチを押すことでスタッカーを動作させることも可能となり、シンプル作業を更にバックアップしております。
さらに、この度のASN-690シリーズから標準ロングテーブルに加え、ショートテーブル仕様を新たにラインナップし、小スペースでも長尺素材のサージング作業を可能にすることも提案しております。
ASN-690シリーズは機械の実用性とシンプル作業にこだわり作られたサージング自動機です。是非皆様の縫製現場でご使用頂き生産性向上と品質向上に対しお役にたてることを期待しております。

【コメント】工業用ミシン事業部商品企画部

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