生産現場に『JUKI』を探る Vol.10
アパレル生産現場第9回
グッドヒル株式会社

グッドヒル株式会社 代表取締役社長 吉岡秀樹 氏

匠の技とIT技術を融合

グッドヒル(鳥取市吉成2-14-21、吉岡秀樹社長)は、本社工場だけで生産要員が約800人、周辺にある別会社の工場を合わせると1000人以上。自社販売(エフワン)とOEM(相手先ブランド生産)をうまくバランスさせながら、オーダーの紳士服を年間約50万着生産する国内最大規模の工場である。「オーダーメードの新時代、いいものだけが選ばれる時代」に、顧客のニーズを重視し、「研究開発・販売・生産を一体化したサービス体制」、「匠の技とIT技術の融合」を掲げる同社は、2008年度の「元気のある企業300社」に全業種の中から選ばれた(中国地方で15社)。

大きな戦力の電子単環根巻きボタン付けミシンAMB-289

一ケ所に800人の国内最大手

グッドヒルは1961年(昭和36年)、鳥取県の誘致企業として三物(のちエフワン)の鳥取工場として設立された。67年に「鳥取エフワン」に社名変更。前後して県内に智頭アパレル、浜村アパレル、岩美アパレル、群家アパレルを設立。1992年に6階建ての新本社工場が完成し、翌93年に社名を現在のグッドヒルにした。また、77年にエフワンから独立したが、2001年にはエフワンを傘下に収め、製販一体の体制を整えた。一方、グローバル化では1991年、北京鳥取愛服王服装有限公司を設立。06年には同公司合弁契約満了に伴い、日本独資の北京鳥取吉岡服装有限公司を設立した。
グッドヒルは、新工場が出来る九二年までは、生産の六割近くを既製品が占めていた。大きく変わったのは、新しい工場になってからで、今はオーダーが100%に近い。吉岡社長は、「オーダーを作るために、工場の仕掛けを全部変えた。作り方としては、一枚流しを念頭に工場の設計をした」と語る。
そうした転換への一歩は89年に設立した岩美アパレル。87年くらいから計画を始め、流し方などいろいろな実験を試みた。次の郡家アパレル(90年)では、ハンガー搬送システム(イートン)を入れた。こうした中で蓄積したノウハウを移転する形で新本社工場を稼働させた。
本社工場の6階から1階まで案内を受けると、そこそこの工場を3つ、4つ見学したような感じになる。6階は原反・付属の立体自動倉庫と縮絨。5階が裁断と管理部門、会議室。4階が裁断と部品の一部。3階が部品の縫製。2階が上着の組み立て縫製と社員食堂。1階が仕上げ・物流。
本社工場の他に浜村(120人)と智頭(80人)でパンツの縫製、岩美(20人)で一部高級品の縫製、郡家(60人)でパンツの仕上げと5、6人でワイシャツの縫製行っているが、裁断は全て本社で集中裁断する。5階と4階に裁断が置かれているが、5階は、既製品や手裁断で、CAD室もある。4階はオーダーの裁断で、柄や格子も全て自動裁断。CAMは全部で24台。その数の多さに圧倒される。
CAMは、表地関係で国産のP-CAM100が5台。米国製のGT-1000が3台、S-95が3台、カッティングエッジが1台、既製や口布の補強芯などを重ねて切る中層裁断機S-3000が1台。裏地、芯地の裁断では国産のレーザー裁断機が7台ある。
CADは自社開発で、パターンメーキングからグレーディングまであらゆるデザインに対応。得意先との連携を強化するため市販CADとのデータ交換も行っている。個々に型紙を作るグレーディング・ソフトは「1000万人の体型データをシミュレーションして作成」したものだ。
近く県工業試験場の協力を得て浜松ホトニクスの三次元測定機を導入し、「いろいろな人の体型をもっと細かく測り、パターン開発をもう1回やり直そうという計画」(吉岡社長)がある。今夏の北京オリンピック、パラオリンピックでは、日本代表選手および役員のスーツを受注し、選手から高い評価を得るなど、着やすさには自信を持つが、更なる研究開発に余念がない。

国内最大規模を誇るグッドヒルの本社工場

ブランドネーム付けなどで活躍する電子本縫千鳥縫いミシン「LZ-2290ASR-7」

設計情報が生産現場に直結

裁断されたパーツは、搬送ハンガーに吊され、加工指図に基づいて縫製ステーションで加工される。上衣縫製には約250もの工程を要するが、各ステーション間は自動で搬送。ポイントになる作業は、データベースとネットワークでつながり、位置ゲージを出したり、ブランドマークの画像表示などを行う。5階の裁断場では、高性能カメラで生地の色、大きさ、柄、Sの位置などの情報をマーキング情報としてフィードバックする「生地情報収集システム」を初公開してもらったが、縫製工程でも設計と縫製現場を直結させる数々の仕掛けが施されていた。
ミシンは本社工場だけで約700台、分工場を入れると約1000台。半分ぐらいが特殊ミシンだが、本縫いはJUKIがほとんどだ。本縫い、オーバーロック関係以外では、本縫自動玉縁機APW(-298、195、194N)、高速電子単環根巻きボタン付けAMB-289、電子鳩目穴かがりMEB-3200、高速電子本縫千鳥LZ-2290ASR、電子サイクルマシンAMSなどかなりのJUKIミシンが導入されている。
この中で吉岡社長が「大活躍している」と評価して止まないのが電子ボタン付けミシンのAMB-289で、3台がフル稼働。特に3つ穴ボタンはもともと、グッドヒルの要望を受けて開発したという経緯がある。
”社長業”の傍ら、常に現場との接点を求め続ける吉岡社長。JUKIの電子サイクルマシンを改造してエリ吊り付けを自ら開発した。それだけに機械メーカーに対する要望はシビアだ。電子制御部品の供給、自動機開発の継続など大手ならではの要望を述べる。しかし、一方で「今、日本の工場は元気が無くなり、そういうことを必要としていない」という現実も、「メーカーとしては単位にならない」ことも自覚している。それだけに「他の工場さんにも頑張ってもらわないと」という発言は、心からの思いのように聞こえた。業界レベルで国内の生産基盤が無くなった時、個別企業の存続も難しくなるという、待ったなしの段階を迎えている。

JUKIから「この一台」

高速電子単環根巻きボタン付けミシン『AMB-289』

AMB-289はスーツ、ジャケット等のボタンを付ける専用ミシンです。ボタン付けから根巻きまで自動で縫製します。
従来この工程は手作業が多かったのですが、AMB-289では、手付けに比べ約5倍の生産性になります。5人でやっていたボタン付け作業がこのミシン1台で間に合います。また、この1台で平ボタン・シャンクボタン・マーブルボタン・力ボタン(カウンターボタン)と各種ボタンに対応可能です。
給油方式には、JUKIで長年培ってきたドライ技術を盛り込んだグリス潤滑方式を採用し、高速性、耐久性を維持しながらも、縫製現場で重要な油汚れの低減に対して、優れた機能を発揮します。
4つ穴ボタンでは、すくいの位置を1ヵ所に集中して手縫い風(V字縫い)に仕上げることができますので、縫裏が綺麗な風合いのあるボタン付けを実現しました。
操作性についてもお客様の使いやすさを重点に置き、見やすい大型液晶タッチパネルで表示内容を確認しながらのボタン種類の切り換え、縫製データの設定変更が簡単に行えるようにしました。また、針振り機構の採用により、振動・騒音を大幅に低減し、オペレーターにも優しい作業環境を提供いたします。
これらの機能に加え、JUKI独自の新型アクティブテンション(電子糸調子機構)により、微妙なテンション設定をパターン毎に記憶できますので、一度設定したボタン付けがいつでも再現いただけます。
安全面に関しても、ボタンがセットされていない時にはミシンがスタートしないなどの安全機能を充実させましたので、初めてのオペレーターでも安心してご使用いただけます。
お客様のこだわりに応え、生産性、縫い品質、操作性、安全性などにおいて最高峰のボタン付けミシンをご用意しました。今後も多くの縫製現場で活躍してくれることを期待しております。

【工業用ミシン事業部商品企画部】

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