手作りワールド

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良い素材に触れ、知る――。
そんな機会を作るために、「洋裁の光景」を創り出したい。
「流しの洋裁人」はそんな思いから生まれました。

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お名前:「流しの洋裁人」原田陽子さん

1984年岡山県生まれ。
2014年より、生地や洋裁道具一式を携えて日本各地へ出向き、洋裁の光景をつくりだす「流しの洋裁人」の活動をスタート。日本各地の機屋さんを訪ねて入手した選りすぐりの生地を用い、セミオーダー服を作る。
2018年に機織りの音が響く街、富士吉田へベースキャンプを構えている。
現在2児の母ながら海外へも流すなど精力的に活動中。

使用ミシン:
職業用ミシン「SL-700EX」

>>「流しの洋裁人」原田陽子さん 公式ホームページ
>>「流しの洋裁人」原田陽子さん 公式Instagram

お客様の声
「ものを作っている人がいる」
普段の生活の延長上に、意識として、そんな想像をめぐらすようになってもらいたいんです。「洋裁の光景」を目にしたことがそのきっかけになれば、と思っています。

「洋服」を作り、「洋裁の光景」を創る“流しの洋裁人”

――“流しの洋裁人”の活動について教えてください。

裁縫道具一式や生地を持参して、全国各地を巡りながら洋服(セミオーダー服)を作っています。

生地の生産地を巡り、その土地の文化を吸収し、次に向かう土地に住む消費者に伝える「廻船(かいせん)」のような役割を果たせたら、と思っています。そして、良い生地や良い服に触れる機会を提供することで、消費者の選択肢を増やしたいんです。

そんな思いから「流しの洋裁人」として洋服を作りながら、全国を“流して”います。
実際に洋服を作っている人が目の前にいる――。そんな「洋裁の光景」を多くの方に見ていただきたくて。
そして「洋裁の光景」を目にされた方が、普段の生活の中で意識的に「今手にしている、目にしているものには[作った人]がいる」という想像をめぐらすようになってもらえたら嬉しいですね。それは、洋服だけではなく。そうすることで、ものを「買う」以外にも「オーダー」したり、「自分で作る」といった選択肢も持っていただけるのではないかなって。きっと、生活がさらに楽しく生き生きとしたものになると思うんです。

「流しの洋裁人」が創る「洋裁の光景」がそのきっかけになれたらいいですね。
そして、その活動を世界にひろげていきたいと考えています。

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■大きな荷物を引いて電車で移動をしていた頃
初期の頃の“流し”スタイル / 2016年とじまてまつりの屋台スタイル

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■2021年からは車で全国を流している。街の景色や自然と調和し、その風景を創り出しているのが印象的
池袋グリーン大通りにて / 八ヶ岳倶楽部にて

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■2023年はフィンランドでも流した。「洋裁の光景」を多くの人が見つめる

街の人々の風景をも創り出す。“流しの洋裁人”の原点は「ガーナの仕立て屋」

――「流しの洋裁人」の原点の一つ、ガーナでの体験について教えてください。

2012年8月にJICA(国際協力機構)の友人を訪ねてアフリカのガーナに滞在しました。その時に見た街の「仕立て屋」に感動したんです。「仕立て屋」がその街の人々の風景をも創り出していました。

ガーナの街は、古コンテナを再利用した小さなお店が幹線道路沿いにずらっと並んでいました。(理美容店、内装屋、車の修理屋さん...)その中の一つに「仕立て屋」もありました。中に入ると笑顔の女性が働いていて。そこでは、服は作るものでした。そして、生地を切るところから始まり、実際に服を作る過程も見ることが出来ました。目の前で服が作られていくこと、生き生きと楽しそうに人が働いていること、それが日々の生活の風景の中にあることに感動しました。

同時に「働くこと」そして「仕事の本質」を知ることができたような気がします。

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■ガーナを訪れた際に見た仕立て小屋では、街の人々が生き生きと働いていた
土地の文化や伝統を感じる生地たち / 目の前でつくる。「洋裁の光景」の原点

――ガーナを訪れる前までのことを教えてください。

2007年4月に就職し、いわゆるギャルファッションやファストファッションの渦中に飛び込みました。就職2年目の後半からは、商品企画にも関与し、3年目にはPM(プロジェクトマネージャー)補佐も務めるようになりました。
当時は小売り買収や大手アパレルの不況などでアパレル業界は激変中。ラインストーン1個で原価が変わる。生地の色の微妙な組み合わせで数万枚の売り上げが左右される。そんな世界でした。閑散期オーダーでライン確保のために無理やり売れない商品を作ったり。なんだか、「もの」の生産現場から離れている気がしてきて、そして会社を辞めました。

その後、母校である「武庫川女子大学」の助手になり、実際に働き垣間見てきたアパレルについて論文にまとめ学会で発表しました。5年という期限が決まっていた職でしたので、「服を作って生きていく」道を改めて探そうと思っていた頃、2011年「東日本大震災」が発生しました。
価値観は今後大きく変わる、経済の成長や拡大ばかりを狙う方向性には間違いがあったのではないかと考えるようになりました。「小商い」や「複業」、「拡大」ではなく「維持する」をキーワードに本を読み漁りましたね。

そして、2012年には専門学生となりました。「ESMOD(エスモード)大阪夜間土日コース」です。教務、同僚の理解を得て、土曜勤務を外してもらい、働きながら学びました。
そしてガーナを訪れました。

――なんだか今の時代を先取りしたかのような生き方に感じます。

今でいうところの「学び直し」「リスキリング」といったところでしょうか。当時はまだそういった言葉は一般的ではなかったですし、学ぶことが好きで、自分がそうしたくてやっていたことではありますが、結果としてはそうなりましたね。

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■ミシンを囲み人が集まれば、そこは自然とコミュニケーションの場となる
2014年から助手をつとめた京都造形芸術大学の文化祭 / 2017年「こども洋裁教室」神戸KIITO

――お客様とはどのようなお話をされるのですか。

ミシンとご自身のお母様との思い出について語る方が多いですね。子供達はミシンを食い入るように見つめます。
子育てが終わった女性や、学生さんからは「一人の女性がやっていることとして私も勇気が出た」という言葉をいただいたり。
「縫製工場をやめて独立した。どのように仕事をしているのか見に来た」という人と、縫い手を探していた人をその場でマッチングしたこともありました。「生地を織る工場や、服を作るあなたに続けて欲しいからこれからも買う」「働き方を含め、あなたの服にパワーをもらっている」と言われるとやっぱり嬉しいですね。

ベースキャンプで活躍しているのは職業用ミシン「SL-700EX」

――お使いのミシンについて教えてください。

服を作って生きていこうと決めた時に買ったのが、「SL-300EX」でした。家庭用ミシンでは考えられなかった厚みも縫え、直線がきれいで糸調子が合わせやすかったです。今は旅先の相棒となっています。そしてベースキャンプで活躍しているのが職業用ミシン「SL-700EX」です。

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――よく使う機能などがあれば教えてください
「自動糸切り」や「押え圧調節」「SUISEIのバインダー押え」。
そしてボタンホーラー「EB-1」です。

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1)自動糸切り:手元のボタンを押すだけで上糸、下糸をパチリと糸切り。
2)押え圧調節:薄物から厚物まで素材に合わせて押え圧を調節できます。
3)SUISEI 四ツ折りバインダー:バイアステープなどで布に縁取りを縫う時に使用。

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ボタンホーラー「EB-1」
JUKI職業用ミシンに取り付けて使用するボタンホール専用装置(ボタンホーラー)


――どのような作品を作っていますか。またこだわりはありますか。

グラフィカルな生地ではなく、風合いにこだわった生地を使用し、シンプルな形状。ノンエイジでユニセックスなものが多いです。その方が生地も着ている本人も生きる気がします。
全国各地の繊維産地を歩いて入手した希少な生地や、オリジナルの国産生地を用いています。
「生地の声を聞く」というのでしょうか、どう調理するとこの生地が一番生きるのかな?と考えます。織物がいかに作られるかということを知っているため、無駄にしたくないんです。裁断クズが少なくなるような、生地を最大限いかせるようなデザインやパターンにすることを心掛けています。

ソーイングを始めようとしている方へメッセージをお願いします

私たちは、家や自動車、家具をはじめ、様々な「もの」に囲まれて生活をしています。でも、前述した「もの」はもちろん、素人が気軽に一人で作ることができる「もの」って実はなかなか無いですよね。そこで、ソーイングです。布とミシンさえあれば、比較的短時間で自分の身の回りの「もの」を作ることが出来ます。ソーイングの醍醐味ですよね。必要なものを作ったり、工夫する楽しみを、ソーイングで生活の中にぜひ取り入れてみてくださいね。

取材:2024年1月