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スーツの挑戦
産産学の共同研究で、
素材からの新提案をめざす
産産学の共同研究を積極的に進め、素材の分野でも糸から新しい提案をするAOKI。
素材から企画・縫製・販売…とサプライチェーンを一貫して扱う強みを生かしてスーツの開発を手がける同社に、新しいスーツ市場の開拓への期待が集まる。素材開発の最前線で活躍する柴田さんにお話を伺った。
株式会社AOKI 商品構成部商品開発室 室長 柴田清弘さん
「お客様のニーズから開発テーマを決定し、紡績会社や大学などとの産産学共同研究で、糸の選定から素材開発を進めています」株式会社AOKI商品開発室長 柴田清弘さん
「お客様のニーズから開発テーマを決定し、紡績会社や大学などとの産産学共同研究で、糸の選定から素材開発を進めています」株式会社AOKI商品開発室長 柴田清弘さん
基本は織る・縫う・売る
高品質商品をリーズナブルな価格で


 現在、国内のスーツ市場をリードしているのは専門店であるが、中でもAOKIは品質にこだわりをもち、技術力が高く評価されている企業の一つだ。
 同社はもともと、1958年、長野市で創業した。1986年に横浜に本社を移転。以来、本格的にスーツ開発・販売を手がけて業績を向上させてきた。
 年間販売量の150万着は国内2位、デザインや縫製技術だけでなく同社が目指すのはトータルな着心地であり、お客様の満足度にある。
 同社のスーツ作りの基本は「織る・縫う・売る」の3本の柱を集約した経営である。自分たちで素材から責任をもって開発し、服作りを行い、顧客のニーズに合った商品をリーズナブルな価格で提供する…ことを理念に、「糸からつくるものづくり」を手がけているユニークな企業でもある。


素材~販売の全プロセスが
ものづくりの現場である


 一般に「ものづくり」という言葉からイメージされるのは、名人や匠の技、つまり、加工技能だ。もっぱら、手作業や手技、からだを通して発揮される物理的な「作る」というイメージだが、実はそれは「ものづくり」の一部に過ぎない。
 物を作るという作業の始まりは、何を作るか、どんなものを作るか、その姿を明確にイメージするところから始まる。そこで、作られる「もの」の骨子が決まる。つまり、ものづくりは、その作るもののイメージを思い描くところから始まり、最終的に消費者の手にわたってそれが使われ、廃却されるところまで、その全プロセスを通して行われる。この全体が「ものづくり」なのである。
 ものづくりを業とするアパレル製造業でいえば、ものづくりは縫製工場だけの話ではない。物理的な「もの」を追いかけていけば、その源流は素材にたどり着き、下流からさかのぼれば、出荷口→仕上げ・検査→縫製→裁断→パターン→デザインという流れがあり、ものづくりの基本になるのはデザイン情報で、作ろうとしているものの付加価値は基本的にデザイン情報にこめられている。ものづくりはデザインから始まっているのである。
 また、販売の第一線で消費者とコンタクトをとっている担当者も、商品知識の基本にデザイン情報を持っていなければ、販売活動はできない。
 つまり、デザイン・素材から販売した後のサービスまですべてがものづくりの現場であり、情報はつながっているのである。
 ものづくりの領域で、生み出す商品に自負と責任を持てば、どうしても素材から手がけたくなる。それが、AOKIが素材から設計-加工-販売までを一貫して手がける理由なのだ。


紡績専門家の素材開発チーム
トータルに手がける強みを生かす


 同社は、オーストラリア、ニュージーランドを中心に高品質な羊毛を確保し、また、多くの繊維メーカーや大学との産産学を通じた共同研究で、新しい素材の開発を熱心に進め、これまでにも、防シワ素材や清涼素材、癒し健康スーツ、癒しα波スーツ、デオドラントスーツなどを相次いで開発してきた。今年は、衣服内の温度が最大5度涼しくなるロイヤルコンフォートクールスーツを開発し、市場に投入している。
 「ウール素材に関して言えば、色柄などのデザインは別として、物性的な研究は日本が世界で一番進んでいると思います。私はもともと繊維の織物と加工技術が専門ですが、糸からの開発専門チームがあるのは、国内紳士服専門店でも当社だけではないかと思います」と株式会社AOKI商品開発室長の柴田清弘さん。
 成果は、たとえばAOKIのトップブランドである「KADINIA」に使用されている「KADINIA WOOL」は世界最高品質と賞されるオーストラリア産の稀少な羊の毛から紡績メーカーとの共同開発で作ったものだ。他に羊毛に伸縮性と保温性をもたらした、ストレッチ&バルキー糸などの開発につながっている。
 また、「売る」の各店舗における販売においても、商品情報が店長会議を通じて各店舗に流され、マン・ツー・マンの接客を通じて、顧客のニーズに沿った提案が心がけられている。
 素材から販売の最前線までが1本のラインでつながった商品開発・提案が行われることこそ、メーカー的な機能を持った小売店の強みといえよう。


世界に誇れる
日本の技術力


 「2005年にイギリスであった国際羊毛研究会議ウールカンファレンスで、ストレッチ&バルキー糸スーツの生理学的機能量と着用快適性の研究を発表させて頂きましたが、おかげさまで高い評価を得ることが出来ました。日本の技術開発は多くの国から注目されていると思います」と柴田さん。
 日本のアパレル工場の持つものづくりの技術力については世界的にもすでに高い評価を得ているところで、世界のブランドが日本で生産されていることを考えれば、この面で日本が大きな優位性を持っていることは言うまでもない。
 こうした力に、素材の開発力を加えれば、あとは足りないのは、デザイン・企画力、それらを総合したマーケティング力であろう。
 商品は消費者・顧客のニーズによって生まれる。その意味で、日本に真のスーツの消費者が育つことで、企画は生まれると考えられる。スーツ市場の活性化に、消費者を育てる、正しい消費者教育が必要といえるかもしれない。


世界に向けた
日本発の提案


 「当グループは現在、AOKIとニューファミリー向けのオリヒカの2路線でマーケティングを行っています。それぞれの消費者に向けて、素材からデザイン、パターン、裏地、芯地、縫製仕様…などを提案させていただいています」(柴田さん)。そうした中で、では、海外に向けて提案できる要素はあるかと考えたときに、日本ブランドの知名度を生かして、中国、東南アジア向けには可能性があるだろうと柴田さんは言う。
 「日本で作られているものがそのままでは通じないと思います。体型に合わせてデザインを変え、パターンも新しく作る必要があるでしょう。日本製品のもつブランド力から中国、東南アジアには可能性があると思いますが、欧米となるとイメージ的にも大きな課題があると思います」と柴田さん。
 欧米人に日本製スーツが受け入れられるにはまだしばらくの時間が必要なようだ。
 とはいえ、日本ブランドの魅力にプラス開発力・技術力を生かしてグローバルな市場での位置を占めるのも長期的には決して不可能ではない。
 たとえば、同社のファーストブランドBELLUMORE「ベルモーレ」は、イタリアンエレガンスをコンセプトに、快適で上質なスタイリングを追求し、高い評価を得ている。


リピート客を呼ぶ
商品開発


 素材-企画-ものづくり-販売と流れる中で、それぞれの部分はきわめて高い技術を要しており、後はベースとなるデザインとアピールのマーケティングが課題だろう。
 同社の商品では、「ファッション性を求める20歳代、30歳代は価格・スタイルが重要なポイントになっており、上記のベルモーレを求める40歳以上の顧客はクォリティと着心地という付加価値を求めている」(同)という。
 年々顧客が増えていく中で、特にベルモーレのお客さんはリピート率が高いという。スーツを理解してくれたお客さんが繰り返し購入するということはとりもなおさずその商品の品質、付加価値が利用者には明確に把握されているということでもある。
 こうした高品質製品を生むものづくりの力を生かして、中国、東南アジアへ進出することは、難しくはないと思われる。そこで生きてくるのが、素材から一貫して手がけるAOKIの開発力・技術力である。
 日本のスーツの新しい挑戦に期待したい。
愛知県一宮市にある同社ファッションリザーブセンター(FRC)。すべての商品が一度ここに集められ、ここから店舗に出荷される。商品の品質を確認する重要な流通ポイントであり、商品開発室はここに位置している。
愛知県一宮市にある同社ファッションリザーブセンター(FRC)。すべての商品が一度ここに集められ、ここから店舗に出荷される。商品の品質を確認する重要な流通ポイントであり、商品開発室はここに位置している。
ファーストブランドBELLUMORE「ベルモーレ」。体の丸みに合わせた立体的なシルエットを表現するために、前肩縫製、毛芯仕立など最高級の素材と仕立てが施され、最高の縫製・最上の着心地を極めている。
ファーストブランドBELLUMORE「ベルモーレ」。体の丸みに合わせた立体的なシルエットを表現するために、前肩縫製、毛芯仕立など最高級の素材と仕立てが施され、最高の縫製・最上の着心地を極めている。
産産学の共同研究で、素材からの新提案をめざす
産産学の共同研究で、素材からの新提案をめざす
産産学の共同研究で、素材からの新提案をめざす
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