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特集 アパレル工場の技能伝承策
マザー工場としてワコールのノウハウを集大成
リーダーの育成に技能伝承パッケージを独自開発
 
ここ2、3年で急速に技術力を上げてきた中国の工場。
日本のアパレル工場は、よりいっそう高付加価値商品づくりの高い技術が求められているが、オペレーターの高齢化で、現場では基本的な技能が失われつつあるという。
日本の産業界は技術と技能を一体化した高い生産技術で世界のモノづくりをリードしてきたが、その生産技術を構築してきた担い手である多くの団塊世代が2007年に定年を迎え、企業から大量にいなくなる。
企業にとってはその対策が急がれるが、この問題が深刻なのは、定年退職で技術がなくなるというだけではない。バブル崩壊後の1990年代、いわゆる失われた十年に企業が採用を控えたために、その技術・技能を受け継ぐべき次の世代が工場にいない……という2重の問題を含んでいるからである。
こうした中で、アパレル工場はどのような対策を採っているのだろうか? 今回の特集では、各社の技能伝承の対策を探ってみた。
リーダー育成用に技能伝承パッケージを開発し、リーダー育成に活用しているワコールのケースをご紹介しよう。
 
(株)ワコール技術・生産戦略本部九州技術グループ部長 - 入山 恒夫さん
九州ワコール製造㈱
長崎県雲仙市にあるワコールのブラジャー生産のマザー工場である九州ワコール製造(株)
10年のうちに生産技術者が半減
技能資産を何とか残したい


福井勉さん
「今後10年間に多くの技術者がいなくなることが予想されますので、技術の伝承は急務です」と語る技術・生産戦略本部長執行役員福井勉さん
中小路哲也さん
「パッケージはバージョンアップして改良する予定です」技術・生産戦略本部技術開発グループ長中小路哲也さん
尾賀宏さん
「図面や規格書、指図書の読み方、工程編成の技術や管理技術・改善技術、さらには、指導の仕方まですべてを入れました」技術・生産戦略本部技術開発グループ 専任課長 尾賀宏さん
長清水精一さん
「九州工場は熊本工場と統合しましたが、当社としてはここに縫製加工の技術を集めてインナーのマザー工場に育てる予定です」。
九州ワコール製造(株)代表取締役社長清水精一さん
入山恒夫さん
「私たちが退職するまでにいかに受けた技術を次に残すか……それが使命です」と語る技術・生産戦略本部九州技術グループ部長の入山恒夫さん
西正剛さん
「4~5名を1回として、年に4回行う予定です」技術・生産戦略本部九州技術グループ 専任課長 西正剛さん
 「2007年問題は当社も他人事ではありません。今後の10年間で生産技術者が大量に定年を迎え、会社から技術が失われていく危険性があるのです」とおっしゃるのは㈱ワコール執行役員技術・生産戦略本部長の福井勉さん。
 一般の縫製工場では生産はオペレーターに依存しており、技術者がそれほど大きな影響力を持っているわけではない。
 しかし、ファジーな部分の多い縫製工程を工業化し、アパレル生産を効率化してきた同社にとっては、モノづくりの基盤である生産技術者の退職は大きな問題である。
 現場で行う生産活動は、その前の準備段階がどのように行われるかでほぼ決まる。生産技術が失われることは、つまりモノづくりの「核」の部分が失われることに等しい。
 「我々の使命は、受け継いできたモノづくりの技術を次の世代にバトンタッチして会社に残すことです。なんとか、10年間にそれを形にしたい」と技術・生産戦略本部九州技術グループ部長入山恒夫さん。
 そんな技術者たちの思いがベースになって、同社では生産現場のリーダーを育成するための技能伝承パッケージとツールを開発し、マザー工場とも言うべき九州ワコール製造㈱で、本格的な導入が始まった。


きっかけは大連ワコールの立ち上げ
広東ワコールのリーダーが指導


 パッケージの内容は、リーダーに必要な基本的な縫製に関する知識や技能、さらには管理業務、指導をするための具体的な方法まで。これまでおぼろげながら知識としてあったことを、系統立ててまとめてプログラム化しており、実技指導ではVTRをふんだんに取り込んだきわめて実践的な育成プログラムになっている。
 このパッケージが開発されるきっかけになったのは大連ワコールの立ち上げである。同社では中国の工場としては北京、広東、上海に次ぐ四ヶ所目の工場として2003年に大連ワコールがスタートした。広東ワコールが立ち上げをサポートすることになり、技術開発グループがリーダー育成用にそれまでワコール社内で使用していた技術教育を集大成し、パッケージ化したものだ。
 「広東ワコールは創業して10年、技術力は十分に持っています。そこで、広東ワコールで培った技術教育のプログラムを集約し、リーダー育成用の技能伝承プログラムを作りました。縫う方法だけでなく、いいリーダーになるために必要な、図面や規格書、指図書の読み方、工程編成の技術や管理技術・改善技術、さらには、指導の仕方まですべてを入れました」と技術開発グループ生産技術担当責任者で専任課長の尾賀宏さん。
 中国では社員の退職が多い。ワコールブランドの品質を保つためには、どうしても技術教育は不可欠になる。
 広東ワコールでは社内に独立した研修部門を作り、そこに社員を入れて育成してきたが、このパッケージはそれらを集大成したものである。


技術教育パッケージ
教育用に12のプログラムを用意


 下が「ワコール技術・技能伝承ツール 技術教育パッケージ」である。
  このパッケージは、知識・実技編、管理基礎編、指導編の3つからなっており、12のプログラム、3つの支援ツールが用意されている。

●技術教育パッケージの構成
1.知識・実技編:
  (1)集合基礎、(2)裁断、(3)縫製、(4)検査、(5)メカニック
2.管理基礎編:
 (6)工数要尺、(7)5S、(8)QC、(9)現場のIE、(10)事前検討
3.指導編:
 (11)1枚縫い、(12)標準作業
●IT支援ツール
 (1)作業標準ビデオ・DVD、
 (2)稼動計測システム、
 (3)工程編成システム

 このプログラムの対象は、主として副班長クラス。当初の研修期間は、1クール65日間という長いものであったが、何回かコースを重ねるうちに期間短縮が図られ、現在は約35日間で行われている。

技術教育パッケージ パッケージのなかの、「集合基礎」プログラムの例。縫製に必要な基本的知識が網羅されている。
製品仕様書の説明では、不確かに覚えている内容が明確に確認できる。


技能・管理・指導の標準を確立

 一般に現場での教育は、先輩から後輩へと業務を通じたOJTで行われるとされているが、近年このOJTが現場で成り立たなくなっている。技能者たちは、自分自身は豊富な経験を積んで高い技能を身につけても、どのように教えたらよいのかを研修で教えられることはほとんどないために、それを次の世代に受け渡す方法を知らない。伝承する仕組みが用意されていないのである。
 そんな中で、OJTこそ基本であるとして、仕組みづくりを行っているのがワコールである。その集大成がこのパッケージである。
 この技術教育パッケージの根幹は、

・リーダーとして習得するべき技能・知識・管理・指導の要素がわかりやすく系統だって盛り込まれ、教えられる
・リーダーとして期待される技能・知識・管理・指導レベルが明確に示されている
・VTRを活用し標準作業を具体的に示す
・OJTでの指導法がVTR等を使用して明確に示されている

……であり、リーダーとして出来なければならない技能・知識だけでなく、教え方までも標準化し、訓練しているのである。
 「技能はそれぞれ身体で覚えていますから、それを言葉で伝えようとすると、それぞれが自分のやり方で教えることになります。それでは伝わる内容が、教える人によりばらばらになってしまい、必ずしも必要なことが必要なようにキチンと伝わるとは限りません。ワコールブランドの商品を作るためには、同じように伝えることが重要です」と入山さん。
 この精神こそ、ワコールブランドの真骨頂と言っていいだろう。


[1.集合基礎]
基本知識・技能を網羅した決定版


 いったいどのような内容が含まれているのか、<知識・実技編>の「集合基礎」の内容を具体的に見てみよう。

A:知識
1.ワコールの紹介(VTR)
  ブラジャーができるまで
2.インナーウェアの種類
3.縫製規格
ブラジャーの部分名称と工程名、製品仕様書、ミシンの種類と針目の数え方、縫製要領、ラミネート規格、パターン表示規格
4.ミシン
ミシンの種類、縫いの種類、縫い目的、ミシンの部分名称とその働き、縫糸、ミシン針
5.練習問題

B:実技
1.針の取り付け方
2.糸の通し方
3.運針用紙による練習

 こうした詳しい内容が、この集合基礎の他に、裁断、縫製、検査、メカニック、工数要尺、5S、QC、現場のIE、事前検討、1枚縫い、標準作業……と続き、理解を助ける貴重なツールが用意されているのである。
 ブラジャー生産のみならず、縫製全体にとって貴重なノウハウである。


九州ワコール製造(株)をマザー工場に
全社的なリーダー育成の定番コースに


 同社はもともとモノづくり技術の向上を重要なテーマとして取り組んでおり、量産技術だけでなく設計技術も含めた伝承が全社的に進められている。量産技術の技術伝承について企画やツール開発は本社の技術・生産戦略本部の主導で進められており、九州ワコール製造㈱が実践する部門と位置づけられている。
 現在、アメリカ、フランス、タイ、中国、ベトナム……と多くの国でワコール製品を生産していて、世界的な生産戦略の中で、国内の工場再編が進められ、商品群別にそれぞれマザー工場として技術の集約を進めている。ブラジャーのマザー工場となるのが九州ワコール製造である。
 ここで技術教育パッケージを使った研修が年間4回ほど実施されている。そのために、熊本工場との合併などいくつかの組織変更を行っている。パッケージはブラジャー生産に関するものだが、内容は汎用的に他の商品にも活用できるため、同工場を研修会場として、先ずは国内工場のリーダーを、さらには世界の工場のリーダーを育成していく予定だ。
 また、“縫製について学ぶいいコース”であるということから熊本工場のメカニック担当者も参加しており、このパッケージを使ったリーダー育成コースがワコールにおける技能者研修の基本的な研修となりつつある。


生産技術者のノウハウを伝承

 この「技術教育パッケージ」は、リーダーを育成するものだが、それ以上にこのパッケージの持つ意味は大きい。
 これまでワコールが培ってきた生産技術のノウハウが、すべて集大成されており、このパッケージ自身が、生産技術のノウハウを社内に残し次世代に伝承するツールになっているのである。
 内容は、縫製の技能と知識、管理技術の基礎、指導法に加えて、ITによる支援ツールとして、作業標準ビデオ・DVD、稼動計測システム、工程編成システム……などから構成されており、これまで同社が長い年月をかけて培ってきた貴重なノウハウの集積なのである。
 一例が、縫製作業をVTRで分析する作業標準ビデオ・DVD、と稼動計測システムである。手作業がベースの縫製工程のミシン作業を、IT機器を活用して分析し、標準作業との違いを把握する……作業改善の決定版とも言うべきもので、こうしたノウハウが伝承できるのは大きい。
 今後、このパッケージはさまざまな改善が加えられ、さらにブラッシュアップされていくことになろう。日本の縫製工場のためにも貴重な財産と言える。

研修スペース 4方向からVTRで撮影して、自分の縫いをチェックすることができる  
さまざまな研修ツールが用意された研修スペース。ミシンには無線LANが設置されていて、ミシンの稼動データはすべてサーバーに保存されるようになっている。 研修コーナーでは、ミシンを使って縫い練習を行い、4方向からVTRで撮影して、自分の縫いをチェックすることができる  
自分の作業とミシンの稼動状態が標準作業と比較できる 自分の作業と標準作業とミシンの稼動状態 右のPCに映されている自分の作業とミシンの稼動状態が、左のPCで映されている標準作業と比較できるようになっている。
 
両方のPCには、自分の作業と標準作業(上)とミシンの稼動状態(下)の両方が表示されている。
 
1クールの研修は35日間。研修の日程と項目が明確にされている。参加者は現場を完全に離れるため、副班長を35日間送り出すラインは、やりくりが大変である。 研修の日程と項目が明確にされている 研修を終えたリーダーの顔写真と紙で縫製した作品が掲示されている
 
研修を終えたリーダーの顔写真と紙で縫製した作品が掲示されている。紙はごまかしが効かないから、練習としては高い技術とシビアな作業が要求される。
 

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