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特集 マスカスタマイゼーション
顧客のニーズに合わせて
リーズナブルな価格でカスタマイズする
 
服が体型に合わない、中高齢者用にセンスのよい服が欲しい、障害者もファッションを楽しみたい……最近こうした声がよく聞かれる。一人ひとりの体型やニーズに合わせた服をリーズナブルな価格で作る技術=マスカスタマイゼーションが、いま、注目を集めている。
マスカスタマイゼーション
買い手の好みに合わせて生産する


小野栄一さん
独立行政法人産業技術総合研究所知能システム研究部門タスク・インテリジェンス研究グループの小野栄一さん。
   一般に車を買うときには、車種だけでなく、車体の色やシート・内装、さらにカーステレオからナビゲーションまで、さまざまなオプションを自由に組み合わせて選択できるようになっています。納期も、よほど人気の車でない限り、それほど待たずに納品されます。
  規格品を大量に作ることでコストを低く抑える……大量生産の代名詞のようにいわれた自動車でさえ、いまは一人ひとりの顧客の好みに合わせて、イージーオーダーのようなことが出来るようになっています。これを実現したのが、顧客の要望に合わせた一つ一つのパーツを正しいタイミングで生産ラインに供給する、ジャスト・イン・タイム(JIT)生産システムです。これも、マスカスタマイゼーションの一つの形といえるでしょう。
  マスカスタマイゼーションとは、一人ひとりの顧客の要望に合わせて商品を提供することで、衣料品で言えば、消費者に対して、好みのデザイン・体型に合わせた服をリーズナブルな価格で提供することです。オーダーの一品生産ではなく、あくまでも量産のような形で行うことで低価格を実現するところがポイントで、これは、モノづくりが追求してきた一つの究極の姿でもあります。紳士服でいえば、イージーオーダーがこれに近い形ですが、これをデザインやサイズ展開を多様にしたものと考えるといいでしょう。


規格品の量産から
ニーズ対応の多品種少量生産へ


 「多目、濃い目、固め!」……これが分かる人はかなりの“通”。いまやラーメンは日本を代表する食文化ですが、若者たちに人気でいつも行列が出来ているお店は、スープの油の量、味の濃さ、麺のゆで加減、それにトッピングの種類……などを客が好みに合わせてオーダーできるようになっています。
  ラーメンは麺とスープだけのシンプルな食品ですが、こだわりのスープで需要を喚起し、さらに客の好みに合わせたオーダーにも応じる。ラーメンへの根強い人気は、優れたマーケティング手法に裏付けられているのです。
  マーケットにおける消費者のニーズは、初期は品質から始まります。商品の品質が満足できるものになると次第に注文が増え、やがて大量のオーダーが入るようになり、量産体制が確立されるようになります。
  やがて消費者は、規格化された商品に飽き足らなくなり、多様な商品を求めるようになります。当初はデザインなど規格品のバリエーションからの選択肢が増えて消費者の自由度が広がりますが、その後さらに多様化が進むと、独自の「個」のニーズに合わせた商品を求めるようになります。
  自動車産業は、規格化された安価なT型フォードに始まって、ゼネラル・モーターズに代表される豪華なアメ車の時代を経て、消費者が求める商品をいち早く供給することを可能にしたトヨタのJITによる多品種少量生産システムへと変遷してきましたが、この流れは衣料品の分野でも同様です。


マスカスタマイゼーション
――3つの方向


 服だけでなく、一般に市場で売られている商品は、最大公約数的なニーズに合わせて作られていて、必ずしも一人ひとりのニーズに合わせて作られてはいません。ニーズに合った商品を提供するオーダーは、残念ながら価格的に多くの人が利用できる状況にはありません。そこで求められるのが、リーズナブルな価格でニーズに合った服を提供するサービスであり、そこにマスカスタマイゼーションへの期待があるのです。
  「いま、個々のニーズに合わせてカスタマイズした商品が求められるようになっている理由は、大きく3つあります。

(1) 高齢者や障害を持った方々に、もっとおしゃれを楽しみたいと思っている人が多く、そうしたニーズに応える仕組みが作られていない
(2) 中高年女性層が楽しめるデザインが少なく、サイズも既製服ではフィットしない
(3) 規格化された現在のパターンが消費者に合わなくなっている

……という、この3つです」とおっしゃるのは、永年ロボットの研究から自動縫製システムの研究を続けてこられた独立行政法人産業技術総合研究所知能システム研究部門タスク・インテリジェンス研究グループの小野栄一さん。


(1) 高齢者・障害者が楽しめる服作り
人口構成の推移
図表1 人口構成の推移
    QOL(Quality of Life:生活の質)の向上が叫ばれている現在、障害を持つ人たちもおしゃれを楽しみたいと思っています。そうした人たち用に、おしゃれで履き易く、着易い衣服が開発されてもいいはずですが、素材もデザインも選択肢は少ないのが実情です。
  「高齢者や障害者用の衣服づくりは、欧米では盛んにプロジェクトが組まれて研究されていますが、日本では、一部の方々が取り組んでいる程度で大きな流れになってはいません。
  バリアフリーやユニバーサルデザインが社会的にも認知され、多少障害があっても外出しやすい環境が徐々に整いつつありますが、他方で体が不自由だったり、高齢化して体型が変化してしまったりした方たちの着たい服がないという状況にあります。衣服のボランティア団体を立ち上げた岩波君代さんは、『服を作ることは人を知ること。着る人をよく知らずに服を作ると失敗しやすい』といいます。採寸からパターン作り、縫製技術者の養成が急務となっているのです」(小野栄一さん)。
  現在、乳房の手術をされた人や手や腕の運動機能に制限のある人用の、身に着けやすく、美しいボディラインを保つように工夫されたブラジャー「リマンマ」や着脱エイドブラ(ワコール)、車椅子利用者用のレインウエア(東レ)などが販売されていますが、十分とはいえません。
  東京都立産業技術研究所では、高齢者女子用の人台の開発が行われています。今後、高齢化が進み、2014年には65歳以上の人口が25%を超えると言われているなかで、バリアフリーに対応した服作りのシステム開発は不可欠の要素と言えるでしょう。

(2) 中高年層が楽しめるデザイン・サイズの服作り
  アパレルの世界においてメインターゲットは30代のDINKS層(Double Income No KidS)まで含めた若い女性層ですが、こうした世代に加えて、このところ1980年代に青春時代をすごした40歳~50歳代のミセス世代が大きなターゲットになり始めています。
  この世代は、川久保玲の「コム・デ・ギャルソン」に代表されるようなDCブランドを大きな市場に成長させた世代であり、ファッションに対する関心も強く、従来の中高年用の衣服とは違った新しいセンスでファッションを求めるようになっています。
  そうした世代が、
・ファッショナブルな素材やデザイン
・新しい体型に合わせたパターン展開
……を求めており、市場的にも無視できないボリュームになっているのです。
  こうしたことを可能にするには、
・多様なデザインと素材をそろえ
・一人ひとりの顧客の採寸データを取り
・データに基づいてグレーディングを行い
・パターンを作成し
・縫製加工を行う
……という仕組みを作ることが必要です。
  このために解決しなければならない問題は
・多様な素材をいかに確保するか、
・基本的なデザインをどれだけ用意できるか
・採寸の仕組みをどう作るか
……など、課題も多い。
  この(1)高齢者・障害者も楽しめる服作りと(2)中高年層が楽しめるデザイン・サイズの服作り……の2つは、いわばイージーオーダーの仕組みが必要なために、縫製工場との連動がなければ不可能です。

(3) 体型に合ったパターンの服作り
  「アパレルのグッドフィット・テクノロジー」を提案するビーエム・ディーシステムが同社の3次元人体測定システム(BLスキャナ)を活用して採集したデータを解析した結果、一番ポピュラーとされる9号サイズにフィットする消費者はわずか13%にしか過ぎず、胸の厚みや腰周りなどでほとんどの消費者が不満を抱いている……という結果が出ています(近代縫製新聞)。
  現在販売されている服はそれぞれアパレルが採用しているパターンに基づいて作られていますが、生活様式の変化とともに体型は年々大きく変化しています。基本パターンを最新の体型に合わせて修正することが不可欠ですが、日本人の体型測定とパターン作りは遅々として進まないのが実情です。
  仮にアップデートな最新のデータを基にして修正しても、商品が対象とする年齢層の体型は一様ではないために、体型に合わないケースがでてきます。たとえば、20~30歳代では標準体型でフィットしても、40~50歳代になると、上は9号でも下は11号、13号……と上とは異なるサイズがフィットするというケースも多い。
  百貨店でも大阪大丸がパンツのサイズオーダーをキャンペーンで展開したり、大丸PBソフールでサイズ間を埋めるジャケットを企画、伊勢丹などでもLサイズ対応のセールを行うなど、よりフィットするサイズの展開に積極的に動いている。
  パターンの基本になる最新の体型に合わせた人体測定データは、社団法人人間生活工学研究センター(HQL)でまとめられた人体計測データベース、コンピュータ・マネキン(SC3)が発表されており、以下のようなデータが公表されている。
・日本人の人体計測データ Japanese body size data 1992~1994
・成人男子の人体計測データ(JIS L4004_1996)数値データと解析
・成人女子の人体計測データ(JIS L4005_1997)数値データと解析

東京都立産業技術研究所「高齢者女子用の人台」 ワコール「リマンマ」 東レ「車椅子用スラックス」
東京都立産業技術研究所では、高齢者女子用の人台の開発が行われています。 ワコール「リマンマ」 東レ「車椅子用スラックス」


自動採寸の仕組みづくり

異業種交流によるマスカスタマイゼーションの展開
図表2 異業種交流によるマスカスタマイゼーションの展開
(クリックで拡大表示)
   マスカスタマイゼーションによる服作りは、いわば基本デザインからの展開です。単にグレーディングをするというよりも、障害者も含めてこれまでの標準体型とは大きく異なる体型も多いため、採寸からパターン作りには専門的な知識が必要で、専門家の育成が不可欠です。
  これが普及に一つの課題になっているのですが、その採寸の工程をデジカメやパソコンで自動で行えるようにしようという仕組みづくりも進められています。
  前述のビーエム・ディーシステム社の3次元人体測定システム(ボディライン・スキャナ:浜松ホトニクス社製)や、サンリット産業の「電子採寸システム・SUBO(スーボ)」などが開発されており、サンリット産業のスーボは2003年に「日本IT経営大賞」を受賞しています。
  今後、マスカスタマイゼーションがさらに進むためには、前述のようなさまざまな仕組みの開発が必要ですが、自動採寸システムもその一つです。
  「欧米ではインターネットを介してある程度個別に対応した福祉衣料を販売する店も多く、それら衣料はAdaptive Clothing、Assistive Clothingと呼ばれています。子供からお年寄り、障害を持つ人用まであり、障害の有無に関係なくおしゃれを楽しむことが出来る環境が整っています」と小野栄一さん。
  日本でも、採寸からパターンオーダーの服作りは先進的な試みが行われています。それらのいくつかをご紹介しましょう。

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