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REPORT
 

 町おこしは自己表現のひとつ。


歴史を自分の中に取り込んで、新たなスタイルを紡ぎだす。
 
株式会社石見銀山生活文化研究所
取締役所長  松場登美さん
 
松場登美さん

松場登美さん。島根県の石見銀山近くで町おこしのカリスマがいる、しかもアパレルが本業!……と聞いたのはずいぶん前のことだった。今回特集でやっとお訪ねする機会ができた。


なぜ人は石見銀山・大森町に吸い寄せられるのか?


 島根県大田市大森町――世界遺産登録の暫定リストに入っている石見銀山で知られるこの町は、江戸時代の最盛期には人口20万人を超える人で賑わいを見せたという。今では、人口わずか500人が暮らしを営む静かな山あいの町だが、この町は週末になると、多くの観光客で賑わいを見せる。

 その仕掛け人が、この町にあるアパレル会社、株式会社石見銀山生活文化研究所の取締役所長松場登美さんである。

 実は松場さんは、ここの生れではない。三重県出身の松場さんは、名古屋でアパレルメーカーに勤めるご主人と結婚されていたが、そのご主人、現株式会社石見銀山生活文化研究所の社長・松場大吉さんが大森町の呉服屋の実家を継ぐために帰ることになって、移転した。昭和56年のことである。帰郷してみたが、過疎化が進む町のこと、呉服屋さんが営業できる状況にはない。

 松場さんご自身はこの町の歴史や環境に愛着を感じていたが、住んでみるとこの土地の生活にあった小物や服がない。そこでご自身が製作し、ご主人が販売しはじめたが、やがてファンがつき、「これは商売になる」とアパレル会社を始める。それが株式会社石見銀山生活文化研究所である。

 当初は縫製工場もあり、自社で生産も行っていたが、現在はデザインを社内で行い、製作は外部に委託している。販売部門も入れると社員は約50名。
石見銀山生活文化研究所 石見銀山生活文化研究所 石見銀山生活文化研究所
緑に囲まれた(株)石見銀山生活文化研究所 田舎家の概観と対照的にモダンなつくりの社内 町の人が集まって被写体となる
「We are here!2005年カレンダー」

歴史を自分の中に取り込んで新たなスタイルを紡ぎだす
 松場さんが先頭に立って取り組んでいる活性化のお話しはとても刺激的だ。いわゆる“町おこし”ではない。ご自身の自己表現の一つの形が、地域の活性化につながっている。町おこしは、そうしたことの結果なのである。石見銀山という町の環境や歴史を自分の身に取り込んで、そこから紡ぎだされた生活ぶりが周囲にも伝わって、彼らも自己表現をする勇気を持ち始め、地域の活性化につながっている……という状況なのである。

 松場さんの自己表現が、地域の人たちの自己表現の呼び水になっている……というのが正解ではないかと思う。

 古い住宅をご自身の生活様式にあわせて改造し、それが町や周囲の環境にピタリと調和している。

 その松場さんによってデザインされる製品は、群言堂のブランドで全国の百貨店などで販売されているが、「もともと衣料は生活・風土から生まれたもの、文化と同じで、風土・環境をとかけ離れたところで作られすぎている。たまたま、自分に欲しいものがそこになかったので、作り始めたにすぎない」というのが松場さんの言葉である。

 作られている製品も、独特の感性で選んだ素材を柔らかな衣料に仕上げている。生活の香りがしながら、洗練された衣料で、「魂をもった肉体を包む衣料」(松場さん)というコンセプトが伝わってくる。
石見銀山生活文化研究所
石見銀山生活文化研究所 石見銀山生活文化研究所
同社のデザインルーム
BURA-HOUSEには、松場さんの作品が
展示されている
BURA-HOUSEの2階は広い部屋になっており、
展示会や演奏会ができるようになっている。

自己を表現することで活性化する
「明治以来、私たちは外にいいものがある、新しいものがいいものだ……と教えられてきましたが、この町に住んでみると、古いものの中にとても素晴らしいものがあることに気がつきました」と松場さん。

 この町にあるいいものを見直していく中で、次々といろいろな人たちが松場さんの周りに集まるようになってくる。集会の場になるのが「群言堂」と名づけられた電気のない家である。夜になるとろうそくの明かりの下にたくさんの人が集まり、酒を酌み交わしながら町おこしや自分おこしの夢を語る。

 “遊びをせんとや生まれけむ”……そのままである。

 ご自身だけでなく、会社の社員も目一杯、自己表現で楽しんでいる様子が良く分かる。これが広がって、地域の人たちも自己表現を始めだした……それが、元気につながり、町おこしにつながっているということなのだ。

  目を吊り上げて、“町おこし”と叫んでいる全国の方々に、この自己表現の楽しみ方を教えてあげたい。
石見銀山生活文化研究所 石見銀山生活文化研究所
石見銀山生活文化研究所
石見銀山生活文化研究所の所有する建物は社員各々の価値を尊重し、社員の意見で常に内装や外装を変化させている。 写真では昔風情の干し柿や庵、炊飯用の釜がある 石見銀山に来る人の半分は、同社の販売店である。 「BURA-HOUSE」に来るのを楽しみにしている 
石見銀山生活文化研究所 石見銀山生活文化研究所
石見銀山生活文化研究所
群言堂の内部。電気がなく、ろうそくの明かりで語り合う  

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