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jm論説
 

岐路に立つ中国アパレル産業


緻密なものづくり技術は、世界の財産。
日本のアパレル技術の出番がやって来た!
 
日本アパレルの技術と品質

jmでは2003年10月のjm217号以来、5回にわたって中国アパレル企業のトップへのインタビューを行い、中国アパレル産業の現状をご紹介してきました。いま中国アパレル業界は、激動の中で大きな転換期を迎えようとしています。
そうした動きの中から、日本のアパレル工場の可能性も徐々に見えてきはじめました。キーワードは、“技術・品質”です。


中国アパレルは大競争時代
ターゲットは米のセーフガード撤廃以後

 いま中国のアパレル業界の最大の関心事は、アメリカの中国に対する繊維製品のセーフガードが解除される 2005年です。
いま、アメリカは中国に対して自国の産業 を防衛するために繊維製品にセーフガードをかけています。つまり中国からの輸入制限を課しているのですが、これが2005年には廃止される予定です。そうなるとアメリカ に向けて大量の輸出ができるようになるため、中国のアパレル企業はいっせいに工場の拡張を進めています。

 セーフガードが外され、よーいドン!で輸出が解禁になったとき、新しく開放された市場で大きなシェアを獲得するためです。アメリカ市場という新しいパイの分捕り合戦というわけです。日本と比べて、アメリカは市場が大きいために、新工場の生産量は、これまでの工場の2倍、3倍という会社も少なくありません。

 現在中国で計画されている工場がそのまま完成すると、生産量は一挙に2倍……とまでは言いませんが、かなりの量になるはずです。果たして工場のラインが埋まるほど仕事が受注できるのか?中国の経営者たちは、アメリカへの輸出が余ったときには、「ヨーロッパがあるさ!」といいます。はたして、それほどのパイがあるのでしょうか?ここで一つの課題があります。
中国のアパレル企業
中国の縫製工場

思うように向上しないモノづくり技能
 アパレル業界のみならず、中国の製造業は人件費が上がりつつあるとはいえ、作業者の労働意欲は高く、技能習得も進んでいます。品質も徐々に向上してきました。かつてのような、“中国製品=品質が悪い”という極端なイメージはだいぶ改善されています。

 これを支えている一つの要因は、賃金のインセンティブ・システムです。現場で不良を作れば、賃金の減収につながるので、作業者は、<不良を作らない方法>と<たくさん作るスピード>を身につけます。こうしたことへの対応力は見事です。中国製品の質が大きく向上してきたのは、こうしたライン技能者の技能習得によるところが大きいと言っていいでしょう。

 ところが、この技能の向上が、その後、思うように伸びないのです。日本人管理者は、このままさらに高い技能を修得してモノづくりの質が向上することを期待していたのですが、どういうわけか、中国の製造ラインが一定の技能レベルに達したところで停滞してしまい、期待したようには向上してくれないのです。

 日本の工場では、現場の力によって、不良を削減し、ムダを省き設備改善を進めることで、品質を改善し生産性を向上させてきました。しかし、中国ではそうはならないのです。なぜでしょうか?
中国のアパレル企業
中国の縫製工場

中国では難しい日本の緻密なモノづくり
 モノづくりは、その国に固有の文化や国民性と切り離しては考えられません。アメリカにある日系の工場でも、日本流のやり方を取り入れてはいますが、管理システムは本質的にはアメリカ流です。その国の国民性や文化とモノづくりの仕組みが融合したとき、その国にあったモノづくりの思想や仕組み・システムが生まれるのだろうと思います。

 日本では、昭和30年代になってやっと、日本の伝統的な文化や思考の上に、会社経営の組織と仕組み、管理思想などが融合し始めました。もともと日本人にあったコンパクトなものを愛する文化や独特の滅私奉公などの集団思考があいまって、QCサークルなどの独特のモノづくりの仕組みが完成したと思います(図1)。

 一方、中国では、まだ企業に勤める人たちでさえ、伝統的な文化や国民性から来る個人的な利害での判断が優先しており、会社運営の仕組みを血肉化するに至っていません。これは経営者も同様です。彼らの行動規範も、会社の役割や使命への理解よりも、個人的な事業意欲によって決定されているのが現状です。

 いま、中国のものづくりの現場ではいっそうの技能向上が求められています。そこで必要なのは、「どんな仕組みで会社は動いているのか?」といった会社・工場運営の基本をきちんと理解してもらうことなのですが、そのことに中国人は興味を持ちません。中国の国民性や歴史・文化と会社経営・管理の思想を融合させて、中国人に合ったモノづくりの仕組みを見つけない限り、日本のような緻密なものづくりはできないと言っていいと思います。
図1.モノづくりの変遷



中国流の管理システム軍師と大将=“計画と実行”は別機能
 果たして中国の文化・国民性は、モノづくりに適しているのでしょうか。中国4千年の歴史と文化から、どのような企業の運営の仕組みが生まれるのか非常に興味深いところですが、モノづくりという観点では、なかなか難しいのではないかと思います。

 中国の歴史を見ても、構想は大きいが、実行が緻密に行われるというタイプではないように思えます。歴史的に見ても、はかりごとを担当する者と実行者は別になっています。これは、設計・計画と製造・実施部門が明確に区分されているアメリカと重なって見えます。技能者=実行者が設計・計画の領域まで広げて処理してしまう日本式にはならないと思えます。それが許される仕組みになっていません。

 果たして企業経営という中で、モノづくり大国になるような資質を中国文化が持っているのか、この辺りを冷静に見極めると、中国製造業の限界も見えてきます。つまり、日本のような緻密なものづくりは、中国ではできないということです。


やっと来た?日本のものづくりの時代
 そこで、わが日本のアパレル工場が生き延びる方向が、明確に見えてきます。結論からいえば、「高品質の商品作り」で、日本のアパレル工場は世界に君臨できる…… そう言ってもいいでしょう。

 そのために何が必要なのでしょうか?

 これまでは、日本のアパレル工場は、販売先をほとんど国内市場と考えてきました。しかし、いまや世界はインターネットによってオンラインで結ばれ、文化を同時に共有している時代です。多くの製造業は、早くから海外に工場を進出し、製品を世界中で販売してきました。

 陶器や漆器という極めて日本的な商品も、早くから海外に進出し、嗜好品として趣味と実用の世界で高い人気を博してきました。
 こうしたことを背景に、柔軟な発想でものづくりを見直し、市場を世界に求めるグローバルな観点から経営を改革することが必要でしょう。すでに、アメリカの展示会に出品し、欧米のバイヤーから注目を集めた吉村ニットさんのような成功例もあります(jm220号)。

 世界中で日本でしかできない緻密なものづくり……その技術があれば、十分に付加価値の高いものづくりで、世界と勝負することが可能になるはずです。

 国内にこもらずに、積極的に世界の市場を知ることで、改めて、日本のアパレル業界活性化の方向も見えてくるのではないでしょうか?

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