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アパレル交流
 

柔らかくて軽い服
――レオ・ロッジの思想を具現化
オーダーメードの良さに拘ったレディメードの服作り
 
訪ねた人  辻洋装店 社長 辻 庸介さん
訪ねた先  株式会社スタンロード(帝共ソーイング)
 常務取締役商品本部長 長谷川 寛治さん
 
帝共ソーイング 長谷川寛治さん と 辻洋装店 辻庸介さん
左から株式会社スタンロード(帝共ソーイング)
常務取締役商品本部長 長谷川 寛治さん、辻洋装店社長 辻 庸介さん

ラインと着心地、フィット感を重視した本格的な紳士服を作る工場として知られる帝共ソーイングさんを、婦人服で同様の製品作りを心がけている辻洋装店の辻社長が訪ねた。


オーダーからレディメードへの転換
レオ・ロッジの指導で服作りを始める

 帝共ソーイングさんの創立は1973年。親会社である株式会社スタンロードが、茨城県稲敷郡阿見町にあるオーダーのスーツ工場を買い取り、レディメードの工場として再スタートした。約5,000坪の敷地に、平屋の工場棟が3つと事務所棟がある。

 「現在の工場は、以前は、1964年に創業したいわゆる昔風のかっちりした重いイージーオーダーの服作りの工場でした。丸縫いができるベテラン職人もたくさんいました。その工場をスタンロードが人も工場も引き継いだのですが、イタリア風の柔らかいレディメードの服作りを行なうということで、それは大変でした」と同社の常務取締役商品本部長の長谷川寛治さん。

 長谷川さんは、1971年にニューヨークのFIT(Fashion Institute of Technology)を卒業し、DAKSの親会社でロンドンにあるシンプソンで研修を受け、さらにスコットランドのDAKS工場で研修を受けて帰国。スタンロード社に就職して、この工場を立ち上げた。ねらいは、本物の柔らかな軽い服作りである。
長谷川 寛治さん
帝共ソーイング工場
帝共ソーイング 長谷川寛治さん × 辻洋装店 辻庸介さん 辻洋装店 辻庸介さん
  「工場を始めるときに、将来につながる服を作りたいと、レオ・ロッジさんに来てもらいました」と長谷川さん。   「紳士服作りの基本をきちんと抑えてやっていらっしゃいますね。こんな工場があるとは知りませんでした」と辻さん。

“かっちりした重い服”の時代に
“着心地が頼りない!”との不満も
 「レディメードをやるのであれば、世界に通じるものをやりたい……ということで、かつてボストンで研修を受けたことのあるモデリスト、ラルフローレンのポロを立ち上げた“レオ・ロッジ”に指導を依頼して、工場はポロが最もいいものを作っていたボストン当時のやり方をそっくりそのまま持ってきた」と長谷川さん。

 「おかげで、いま工場が生きていられるのですが……」とおっしゃるが、時代は、まだアパレルが好況を謳歌していた1975,6年である。かっちりした重いスーツ作りが全盛の業界に、柔らかな服作りが受け入れられる環境はない。
 「大変だったでしょう!」と辻さんもうなずく。

 「ベテラン職人の方々に、柔らかくて軽い服といっても、一朝一夕には無理ですよね。どうしても何ミリか?と聞いてくる。イセは何ミリ入れるのか、縫い代は何ミリ取るのか……。そのたびに、何ミリではなく、こういう状態になるまでイセを入れる、縫い代を取る……と実物で見せて納得させるしかない。ラインを活かしたいからで、それが丸縫いができる職人さんには理解できない。結局、残念ですが、ずいぶんやめていかれました」とのこと。

 「納品先から呼び出しがあっていくと、こんな服は頼りなくてイカン。もっとしっかりした服でなくては!」としかられたこともあります……というお話に、辻さんもうなずく。
帝共ソーイングの紳士服作り
帝共ソーイングの紳士服作り
帝共ソーイングの紳士服作り
  肩もアイロンで無理矢理形を決めるのではなく、生地を自然に戻してあげるように仕上げるのがコツだ。丁寧な作業で、手がかかっていることが良くわかる工程だ。   最初の段階で前身頃と後身頃をつけてしまう。ウエストのラインを決めて、これを変えないためだ。こうすることで、きれいなウエストラインが仕上がる。   ミシンだけでなく、プレスや馬にもさまざまな工夫が凝らされている。  

先祖からの作り方だから、変えない
 現在、同社は男子15名、女子118名(内パート34名)の133名。平均年齢が約40歳。10代から60代まで幅広く、一度結婚を期に退職しても、子供が大きくなるとまた戻ってくるという。帝共ソーイングになった当時の社員も何人かいて、工場を支えている。

 作っているのは、ポロやナポリ仕立てをマシンメードで実現したRUBINACCIなどのスーツの上衣だけで、パンツは協力工場に委託。しかし、セットの上下の品質がそろわなくて、苦労も多いという。

 生産数は、年間48,000~52,000着、年間稼働日数は260~261日だが、2~4月は休日、勤務時間を減らして、他の月に振り換える方法で繁閑差を調整している。

 スタンロード社は、ナポリのマリアーノ・ルビナッチが経営する「ロンドンハウス」と契約しており、代官山に“RUBINACCI”という店舗を開いている。ここでハンドメードのオーダー服を作っているが、ロンドンハウスでスーツを誂え、アトリエも見学したことがあるという辻さんは「ミラノのロンドンハウスでは、代官山店をロンドンハウスの東京店と呼んでいますね」と詳しい。


手作りの良さを最大限いかす
 工場は1ラインでセンターラインにプレス装置が置かれ、両側にミシンが並べられている。このレイアウトは、イセなどでつけられた生地の曲がりをプレスで自然に戻す、ミシンの後にプレスをかけるためだ。衿はつけるのではなく上に乗せるだけ。ラペルはアイロンで折るのではなく、自然に返るように作る。組立の流れも、前身頃と後身頃を先に縫って丸い胴を作ってしまう。「一番重要な脇のラインを触らせないためです」と長谷川さん。あくまでも美しいラインと軽さ、着心地を重視した服作りを最優先する姿勢を貫く。

 「服はもともと手縫いが一番いいのですが、その手縫いのよさを生かしています。このこだわりはすごいですね。こんなすばらしい服作りをされている工場が日本にあるとは知りませんでした」と婦人服でラインを重視した服作りをしてきた辻さんも、紳士服でここまでやるとはと感心しきりである。
帝共ソーイングの紳士服作り
帝共ソーイング 長谷川寛治さん × 辻洋装店 辻庸介さん 帝共ソーイング 長谷川寛治さん × 辻洋装店 辻庸介さん
帝共ソーイングの紳士服作り
  この段階でエリをつまむと、自然と返る。形がしっかりとできている。  

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