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vol.216特集1

“良質”のファッション製品を味わい・楽しむ
スローファッション作りの仕組みとポイント

スローファッションは何を目指す
 スローファッション……は、ゆっくり作った、手作りのファッション製品という意味ではありません。いま、スローファッションを提案させていただこうと考えたのは、次のような考えからです。
 戦後、全速力で走りつづけてきた日本のアパレル産業は、これまで大きな成果を生み出してきました。しかし、周囲を見回すと、その全速力には限界がきているように思えます。少し力を抜いて、楽に楽しみながら歩いてもいいのではないか……。生活のリズムをゆっくりとすることで、全速力では見逃してきた豊かさを味わうことも出来るのではないかということからです。
 食の世界では、手軽でインスタントなファストフードが私たちの生活の中に浸透し、現代のリズムにはなくてはならないものになっています。
 そんななかで、1986年北イタリアの小さな町ブラで、命の根源である“食”がこんな手軽に済まされていいものなのか、「食事くらいゆっくり食べようじゃないか」……という問いかけがなされ、スローフード運動が始まりました。この運動は、いまでは世界中に10万近い会員を持つ活動に広がっています。
 この運動の特徴は、単なるグルメではなく、
1. 消え行く恐れのある伝統的な食材や料理、質のよいワイン(酒)を守る
2. 質のよい素材を提供する小生産者を守る
3. 子供たちを含め、消費者に味の教育を進める
という環境に配慮した食文化を提唱している点にあります。
 こうした哲学は、同じように私たちの生活を彩るファッションにも通じるのではないでしょうか。
縫製技能は前提、ポイントは"思い"
 そうしたスローファッションを生み出すために、創り手としてはなにが必要なのでしょうか? まず第一に、良質のファッション製品であることです。
 良質イコール高級品と思われることも多いのですが、高級品であることはスローファッションには、必要な条件ではありません。
 一般にファッション製品の品質を語る場合、いくつかのポイントがあります。
 たとえば、
デザイン
素材
パターン・裁断
縫製
仕上げ
などであり、完成した結果もたらされる、
着心地
風合い・ラインの美しさ
堅牢性・保守性
などです。もちろん、価格も重要な要素になるでしょう。
 これらはいずれも、ファッション製品の質を大きく左右する重要なポイントです。高級品は、デザインを起点として、こうした要素をある一定のレベルで満足させた商品ということができます。しかし、“個”の嗜好から出発するスローファッションの観点からみると、これまで重視されてきた品質、つまり縫製品質という切り口だけでは消費者を満足させることは出来ません。
"スロー"に作らないスローファッション
 一見、かつて言われた“感性重視”と同じように感じるかもしれませんが、同じではありません。アパレル生産工場で、かつて叫ばれた“感性”重視は、“感性”と“技能”がシーソーのような関係になり、感性重視を叫ぶ裏で技能が軽視されがちでした。なかには技能をないがしろにして感性重視が行き過ぎた結果、技術力を失い、縫製品の品質について正しい判断が出来なくなって、服作りの正統な技能を弱体化させてしまった工場もあったようです。服作りの基本は、技能にあります。これをなくして服作りを続けることはできません。
 スローファッションには、高度な技能は不可欠ですし、生産を効率的に行なうためのノウハウはなくてはならないものです。スローファッションは、ゆっくりと楽しみ、味わうファッションであっても、決して“ゆっくり作る”ファッションではないのです。必要な工程であればたっぷりと時間をかけてゆっくり作りますが、不要なムダは極力排除して、効率的に作ることは経営的には、不可欠な努力でもあります。
スローファッションを生み出す仕組みづくり
 しかし、スローファッションは決して贅沢に作るということではありません。素材の特徴を生かすためには必要な時間はかけますが、無駄な時間をかけることはありません。“スロー”の意味は、“時間をかけて贅沢に”ではなく、“好みにあわせて”ですから、環境保護や社会性を重視する消費者にはそうした切り口も、購入を促す動機になります。
 環境にやさしい素材を使った商品、健康的な商品、社会的な責任……などは、最近とみに重視されている要素です。工場でも、こうした消費者の要望にあわせて、モノづくりを行なうことが必要になります。
企画部門と縫製部門の融合を
 アパレル製品の生産にあたっては、サンプル作りを通じて最適な工業用パターンへの修正は不可欠です。日本では、これを縫製工場が修正するという仕組みになっています。イタリアには仕組みの中で認められたモデリストという存在があり、彼らが担当します。他の国でもこの作業は企画部門の責任で行なわれるのが普通です。
 スローファッションとして、アパレル生産の企画からアフターサービスまで一貫した一つのポリシーでモノづくりを行なうためには、上流の企画部門の強いリーダーシップと責任が不可欠です。
 欧米風にすべてを企画部門に依存すると、結果として縫製部門の技術力が失われていくことになるでしょう。これまで私たちが培ってきた縫製分野での日本品質を実現している技術は、世界の市場を相手に消費者が求める“個”に応じた商品を作るためには重要な条件です。
 スローファッションを実現するためには、縫製部門の力を高めながら、いかに企画部門の力を高め、密接な連携で仕事をするか……その仕組み作りが急務であるということが出来るでしょう。縫製部門と企画部門の融合……これこそがスローファッションを実現し、世界のアパレルをリードする重要なカギになるといえるでしょう。

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