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わが社のモノ作り戦略 第3回

及川常務
及川常務
及川会長
及川会長
及川被服
及川被服 代表取締役会長 及川 秋穂氏
及川被服 常務取締役、
米山アパレル 代表取締役 及川 栄樹氏

 学生服や官公庁・企業制服のズボン縫製を手掛けている「及川被服」のある宮城県登米市は、東日本大震災の最大被災地の一つである南三陸町と山一つ隔てたところ。幸い同社の被害は軽微だったが、本格稼働までしばらく時間を要したという。こうした中、震災を機に中国人実習生が全員帰国し、数年前から進めてきた「日本人100%」体制が"前倒し"で実現した。及川秋穂会長と子息の及川栄樹常務(グループ会社の米山アパレル社長兼務)の2人に、新たなステージの同社の方向を聞いた。


若手の育成で新たなステージへ

「超」がつく個別対応、短納期の学生服や官公庁のズボンを生産
「超」がつく個別対応、短納期の学生服や官公庁のズボンを生産
―震災からまもなく5カ月なります。宮城県は沿岸部を中心に大きな被災を受けましたが、こちらはいかがでしたか。
会長
私どもでは建物の被害はほとんどありませんでしたが、5、6日間、電気が全面的にストップし、にっちもさっちもいかない状態でした。通信も遮断され、携帯電話は1週間くらいで通じたのですが、固定電話は復旧に2週間くらい掛かり、まったく連絡が取れず取引先のお客さんにはかなりご心配をお掛けしました。その間にミシンの修理、崩れた原反や設備などを元に戻し、電気が回復したらすぐ操業が出来る状態にしていたので復旧は早かった。しかし、操業を再開してもしばらくはガソリンが手に入りにくかったとか、沿岸部に親類戚縁者がいる社員が出社出来ないという状況が続きましたね。
常務
ガソリンの供給体制が滞ったので及川被服も米山アパレルも2週間くらいは乗り合いで出社していました。米山アパレルではすべての社員を6ルートに分け、それぞれのリーダーに会社で確保できたガソリンを分け、1台に5、6人乗せて出社してもらいました。普段はいっぱいの駐車場もその間は毎日5、6台しかありませんでした(笑い)。

―3月といえば入学式シーズンに向け、メーンの学生服ズボンは1年間で最も納期に追われる時期です。
会長
学生服では3、4月は入学試験発表から入学式までの短期間に納品しなければいけない一番重要な時期でした。何としても納期は守らなければならないので、私の方で間に合う部分だけを残し、お客さんにはご迷惑を掛けしましたが、ほかの工場に振って頂いた。学生服ズボンは入学式前の4月8日くらいまでの冬物と、引き続き5月20日が最終納期の夏物という二つの山がありますが、5月の夏物は何とか納期通りに納めることが出来ました。この間、中国人実習生が帰国したり、先ほど話したとおり休まざるを得ない社員もいて、急遽補充した人たちの教育に時間が掛かり、震災後から最近まで生産性は10%くらい落ちていたんです。ここに来て人員も元に戻り、8月1日から震災前と同じ目標でいけるメドがつきました。

―及川被服グループの現状は。
会長
及川被服がパート含めて77人、車で10分のところにある米山アパレルが40人の総勢で107人。生産アイテムはズボン専門で、学生服が45%、官公庁が35%、企業向けが20%の構成です。2社合わせて年間生産量は11万本で、生産効率を考えて及川被服は無地物、米山アパレルはチェック・ストライプなどの柄物という役割にしています。それと米山アパレルには量産に乗せにくい商品や難しい仕様、例えばゴム付き、半ズボンなども割り振っています。平均ロットは28本くらいで、及川被服と米山アパレル合わせて1日720本が生産目標ですから、一日にかなりの品番が流れるわけです。とりわけ最盛期の3月は及川被服だけで平均50型、多いと70型くらい入ります。その都度仕様も全部チェックしないといけないし、糸替えしないといけないが、それを効率よくやっているのが特徴です。


小ロット、短納期の仕組み構築

柄物や難仕様の商品を手掛ける米山アパレル
柄物や難仕様の商品を手掛ける米山アパレル
―そのための仕組みは。
会長
完全内製化と電子化です。及川被服では縫製後、垂直リフトで2階に上げて糸切りを行い、中間検査し不良が見つかるとシューターで縫製に戻しますが、合格品はボタン付け、尻まつりなどをして、ハンガーシステムで別棟の仕上げ・出荷を行うデリバリーセンターまで流します。これによって多くの品番を生産しても、当日上がった商品は当日発送が可能です。もう一つの電子化はコンピューターを使った生産管理で、自社開発したソフトです。かつて一つのロットで二28枚コピーしていて、多額のコピー代が掛かったことが開発のきっかけで、今では事務所で入力すると、指示書、仕様書、報告書、検針や発送データなど原反管理から生産管理、納期管理までカバー出来ます。現場のポイントごとにもパソコンを置いて、指示や仕様書、品番などが確認出来る仕組みにしています。
常務
米山アパレルでも昨年秋冬物からマトメ外注の振り出しを止めました。もともと米山アパレルの生産分も仕上げと出荷は及川被服のデリバリーセンターに持ち込んでいましたので、マトメ外注を止めて、縫製後すぐにデリバリーセンターに入れることにしたんです。そのために米山アパレルでは工程で糸切りまでし、及川被服のマトメ要員も増強してもらいました。そうすることで外注の1日から1日半のロスタイムが解消出来ました。繁忙期ではものすごく大きい時間ですからね。「超」がつくほどの短納期と個別対応に対して、こういう仕組みを構築してきたことが対応出来ている要因ですが、ボクは多品種小ロット短納期を長年経験し、それが会社の中で当たり前だという意識になっていることも大きいと思います。


前倒し"で日本人だけの体制に

―ところで、震災を機に日本人だけの体制になったそうですね。
会長
中国人実習生は及川被服に10人、米山アパレルに5人いたんです。あの時は地震も怖かったのでしょうが、原発事故で本国から帰国を促す電話があったようです。私どもの方では中国人研修生・実習生はピークで両社合わせて27人いたんですが、2年ほど前から受け入れを止める方針で、来年にはゼロになる予定でしたから、ちょっと前倒しになったということです。
常務
昨年10月から米山アパレルを任されることになり、この7月で34歳になりましたが、実はボクは8年前に26歳でこちらに帰ってまもなくから中国人研修生・実習生の受入事業を止める決断をしていました。と言うのは、目指している経営とはちょっと合致しないというところがありました。ボクは社員とともに苦しみも喜びも全部分かち合ってやっていきたいと考えています。それが研修生・実習生がいることによって、確かに人員的には大きな戦力ですが、彼女たち頼みの経営になってしまいます。3月に帰国した中の1人の実習生は、今は人がいなくて大変な状況ですから、帰国しますけど飛行機の手配が付く日まで毎日協力したいと手伝ってくれました。これは泣けましたね。そういうすごく会社に貢献してくれる人もいましたが、やはり気持ちを一つにしてという経営にそぐわない部分を感じてきました。今、会社にロイヤリティーを持つような人は日本人にも少ないと言われるかも知れませんが、でも、社員と一緒に毎日会社に行って仕事をするのが楽しみだというような会社にしたいと思っています。だから日本人の若い人たちに技術を覚えてもらい、その人たちが中核になる企業になれば、ボク自身すごくやりがいがある。それに自分の右腕となる者がいないことには、1人では会社は成り立ちませんので、そういった意味で日本人の若手社員を大勢抱えるような企業体質にして行かなくてはダメだということをずっと考えていたんです。それに我々はモノ作りの会社ですから、技術が残らないことをやっているのはナンセンスです。だから3年間で帰国する研修生・実習生が中核ではなく、やはり長く勤められる日本人で若い人を育てていくというのが自然な成り行きです。それで会長にはずっと研修生受け入れを見直すべきだと説得してきました。

―若手日本人を採用するためにどうしたのですか。
常務
翌年27歳の時からボクの方で動きました。まず及川被服、米山アパレルという企業がこの登米市米山町にあるんだ、頑張っている企業だということを分かってもらうため、学校の先生方に会いに行きましたし、企業合同説明会やハローワークにも足繁く通いました。車で30分圏内の高校はほとんど回りましたね。それで毎年新卒者を2人、3人と継続して採用し、今では逆に先生方から今年も雇って下さい、と言われるくらい浸透してきています。今春は両社合わせて新卒8人が入社しましたが、来春は5人ずつの総勢10人を採用する計画です。ところが登米市管内で就職希望の高校生は80人しかいません。と言うことは、8分の1は及川グループに入社してもらわなければいけないというくらい大変です。ですから今年はちょっと遠くの石巻や大崎地区までエリアを広げて求人しています。

―震災後の仕事の状況は。
会長
受注は順調です。私の方も迷惑を掛けましたが、お客さんも仕方ないこととして、震災以降も例年のように発注が続いています。逆に、また何かあると困るからと、いつもより早く原反を積んで頂いている取引先もあります。これまで研修生・実習生頼みで来て、やらなければならないことを見過ごしてきた面も否めません。日本人だけになり、あらためて機械化や生産性なども見直さなければならないし、縫製工場としてまだまだやるべきことは結構あります。国内工場はとにかく小ロット、短サイクルで採算があうようにするのが最大の防御策と考えています。
JUKIは世界のアパレル生産を全力でサポートします
● 電子サイクルマシン(AMS-210EN)がネーム付けで活躍
● 裁断担当者でも楽々と


及川被服では前工程で入力機能付き電子サイクルマシン「AMS-210EN」が稼働
及川被服では前工程で入力機能付き電子サイクルマシン「AMS-210EN」が稼働
及川被服さんで導入されている自動機の一つとして、JUKIの「入力機能付き電子サイクルマシン『AMS-210EN』」が活躍しています。
 電子サイクルマシンは、作業者が縫製物をミシンにセットしスタートさせると、その後はミシンが縫製データをもとに、自動で縫製から糸切りまでを行います。AMS-210ENは業界トップの縫い速度を持ちながら、消費電力を大幅に削減し、生産性と縫い品質、操作性を向上させた機種です。電子サイクルマシンは可縫範囲の違いで小型エリア、中型エリア、大型エリアの機種をラインアップしていますが、同機は最も汎用性が広く、コストパフォーマンスに優れた「小型エリア」に対応するミシンです。
 同社では現場改革の一環として、今、裁断部門が前工程を受け持っています。AMS-210ENはこの前工程に取り入れられ、裁断後のパーツのネーム付けに活用されています。同機の特長を生かし、縫製専門オペレーターではなく、裁断部門の女性社員が楽々と担当しています。及川会長は「電子サイクルマシンはいいですね。セットさえすれば誰でも縫えますので、裁断の時間が空いた時に担当してもらっています」と話してくれました。
 JUKIは、アパレル生産現場の高品質なモノ作り、生産性向上のために自動機の提案に力を入れています。スラックス・ボトム向けでも電子サイクルマシンのほか、多種多様な機種をラインアップしています。
 新製品の1本針自動ベルトループ付けミシン「AB-1351」は1台で7パターンの「ベルトループ付け縫製」に対応できます。スラックス・カジュアルパンツのベルトループ付け縫製に最適で、多様なベルトループ付けにフレキシブルに対応できる世界初の自動機です。オペレーターは身生地をセットし、スタートスイッチを押すだけで、ベルトループのカット、折り、縫製をミシンが自動で行いますので、生産性を大幅に向上させることができます。
 自動サージングマシン「ASN-690シリーズ」はシンプルで使い易さを追求した超高速タイプ。様々な形状をした生地の縁かがり縫を行うサージング工程に高速で対応します。
 本縫い自動玉縁縫い機「APW-895/896」は、スーツやジャケット、パンツなどのポケット口を自動縫製(フラップ付けにも対応)します。APW-896は、デザイン性を高める斜めポケットに対応し、世界初の「コーナーメス横方向切り込み位置電子制御」機構を搭載するとともに、「コーナーメス左右個別昇降」機構を採用し、縫製品変更に伴う段取り時間を大幅に短縮することができます。

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