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経営者のための経営分析手法 ~生産性分析~

中小企業診断士
渡辺 孝
<第6回>
付加価値と人件費の関係
~労働分配率~


 経営者の悩みは、我社の従業員には出来うるなら高い賃金を払ってあげたいという気持ち"感情"と、経営上は主要コストである"人件費"は低いほうが良いという気持ち"理性"の相反する思いを持っていることでしょう。
 他社は「いくらくらい払っているのか…」など比べたいと思われるのではないでしょうか?
 今回は経営者のお悩み解消の助けとなるべく、人件費として会社が支払える適正値はどれくらいなのか?を計算してみましょう。

  • 付加価値と人件費の関係
     前回までの説明で、会社が新たに創りだした価値を"付加価値"としました。
     この付加価値は最終的に様々な費用に分配され、残ったものが利益となります。(図表14)

    図表14
    図表14

     付加価値は様々な費用に分配されます。中でも人件費への分配は付加価値の多くの部分を占めるので、企業経営上重要な指標です。
     付加価値に占める人件費の割合を労働分配率といい、次のような算式で計算できます。

    労働分配率

    ※人件費:給与賃金手当(給与・労務費など)+賞与(引当金繰入)+福利厚生費(法定福利費含む)+退職給付費用(引当金繰入)+役員報酬+役員退職慰労引当金繰入+役員賞与

    第2回目の連載にて参考例として記載した××縫製の決算書を例に計算すると以下のようになります。

    ××縫製決算書
    労働分配率

  • 労働分配率はどれくらいが適正か(人件費のむずかしさ)
     図表1からもわかるように、労働分配率は低ければ低いほど利益が出やすく収益性が向上します。
     労働分配率を良くするために分子である人件費、すなわち給与を下げるのが手っ取り早い方法です。
     しかし、モラール(士気)が高くやる気のある従業員に、労働分配率向上のため給与カットを言い渡したらどうなるでしょうか?
     「経営に対する不信感が大きくなり、従業員の士気は低下、はてには従業員が自ら会社を去っていくことになりかねません。その結果、付加価値が低下して付加価値労働生産性そのものが悪化する可能性があります」
     以上のように、労働分配率は重要な経営指標でありますが、この指標のみに偏重して従業員を犠牲にするような経営は成立ちません。
     ここはやはり、世間並み(地域平均人件費)を支払ったうえで、算式の分母である付加価値そのものを向上させることに全力を傾ける経営スタイルが望まれます。(図表15の左上の象限を目指すスタイル)

    図表15
    図表15

     労働分配率は業種、企業規模によって異なります。特に最新の生産設備を備えた資本集約型の大企業と労働集約型の中小企業では大きな差があります。
     そのため、一概に判断することは難しいのですが、時系列的に見て上昇傾向にあるのか下降傾向にあるのかによって対応策を考えなければいけません。
     下記に一般的な労働分配率判断のメドと縫製業の労働分配率、1人当り平均人件費の推移を示します。(図表16,17)

    図表16:労働分配率判断のメド
    図表16:労働分配率判断のメド

    図表17:縫製業の労働分配率の推移(黒字企業平均)
    図表17:縫製業の労働分配率の推移(黒字企業平均)
    (資料:TKC経営指標(平成23年度指標版))

     図表15の例のように、人件費は他社平均以上を目指し、且つ、労働分配率50%台を目指す経営が、企業を経営して行く上でも、従業員満足(ES)の上でも重要です。
  • 労働分配率改善ポイント
     一般的に労働分配率の水準が高くかつ上昇傾向にある場合は、まず、人件費を引き下げるのではなく、付加価値労働生産性を上げることにより人件費を吸収することを考える必要があります。

     筆者の持論は、労働分配率引下げのためには、付加価値の最大化を最優先とします。しかし会社の置かれている環境(財務体質・外部環境など)を考慮し、やむを得ない場合のみ人件費などの固定費削減も検討します。
     ただし「縮小均衡を繰返しての企業存続はない」ということを肝に銘じ、縮小は次の飛躍のためで、固定費削減は、削減後の生産性など改善目標を定めてからの実施でなければなりません。
     (人件費など固定費削減を実施したのみで「一息つけた」と、そのまま現状維持で、その後経営改善が進まなくなる企業が多い)

     上記とは反対に労働分配率の水準が低く、従業員の給与水準が地域人件費相場よりも低い場合は、付加価値に占める人件費を増やすことが出来る余地があり、賞与など成果配分制度を見直し労働分配率を引き上げ、従業員のモラール(士気)を向上させ、結果的に生産性を向上させるという対応が必要です。
     労働分配率が高い場合は企業の生産性が低いので、企業変革や改善の余地が十分にあるとも言えるのです。


* 連載を通じて

 今回で全6回の連載は終了します。
 縫製業を含め国内製造業を取巻く環境は厳しいものがあります。
 筆者の経験では「ものを作る」という事に関して国内で事業を行っている企業は、技術力が高い企業が多いと思っています。
 ただし、技術力と両輪でマネジメント力が高い企業は少ないのが現実です。
 市場が拡大していた時代は("需要>供給")技術力が高ければ、事業が成立ちました。
 しかし、これからは、5回目の連載記事で書いたようにマネジメントの基本であるPDCAサイクルを会社組織全体で回して、"技術力+マネジメント力"でもの作りを行う企業が、お客様から選ばれ、生き残って行くことができると考えています。
 PDCAサイクルを回すことが出来れば、会社組織を構成する経営者、従業員全員で勝てるイメージ(上手くいくイメージ)と目標を共有することが出来、目標達成のための行動に移れるのです。その結果、最終的に"従業員全員の意識改革・組織改革"が図れるのです。
 「マネジメントなんて難しい」と言われる経営者も多いですが、難しいのではなく、経験が少ないため「慣れていないだけ」なのです。
 筆者は、マネジメントに慣れていない会社の場合、皆で朝礼(ミーティング)を行ったり、5Sを全員で行ったり、ハードルを高くせず、従業員全員で取組めることを見つけてPDCAを回していきます。少しずつ体験を通して慣れていけば決して難しいことではありません。

 環境変化に鈍感、または成功体験が長い企業(組織)は必ず衰退の道をたどります。自然科学者のチャールズ・ダーウィン氏が遺したとされる言葉があります。『最も強いものが生き残ったわけではない。最も変化に対応したものが生き残った』
 皆さんの会社もPDCAを回し、"技術力+マネジメント力"で環境変化に対応できる組織作りにチャレンジして下さい。

 今回の連載をお読みになり自社でも課題や問題解決に取組みたいと思っていただけたら幸甚です。
 また、中小企業診断士などの専門家に実際の経営分析から課題達成のロードマップの作成、実行支援などを依頼したいという場合、専門家派遣に伴う費用補助を受けられるなどの公的支援策がございます。
 公的支援策の内容については、商工会、商工会議所、都道府県中小企業振興センター、中小企業団体中央会、取引金融機関など、お近くの中小企業支援機関又は、筆者(渡辺 孝 Eメール:watanabe@management-plus.info)宛に遠慮なくお問合せ下さい。
 長い間のご愛読ありがとうございました。

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